震災がれき問題、なぜ深刻になったのか? — 放射能と原発をめぐる知識不足のもたらした混乱

津波で海水にひたされ、ゴミだらけになった宮城県名取市の昨年6月の様子
東日本大震災で発生した災害廃棄物(がれき)の広域処理が進んでいない。現在受け入れているのは東京都と山形県だけで、検討を表明した自治体は、福島第1原発事故に伴う放射性物質が一緒に持ち込まれると懸念する住民の強い反発が生じた。放射能の影響はありえないが、東日本大震災からの復興を遅らせかねない。混乱した現状を紹介する。
被災地宮城県に19年分のがれき
2月10日に日本政府は復興庁を設置し、野田佳彦首相は会見を行った。その中の当面の課題の一つに、被災地のがれきの広域処理を挙げた。「仮置き場に集められているがれきを被災地で処理する能力は限界がある。安全ながれきを全国で分かち合う広域処理が不可欠だ。これまで東京都や山形県など積極的に協力いただいているところもあるが、すべての閣僚で各自治体に幅広く協力呼びかけをしていきたい」。全国の自治体に対して、がれき処理の協力を呼びかけた。
しかしその処理はなかなか進まない。野田総理の発言のようにがれき処理への協力を2月10日までに決めたのは東京都と山形県のみ。受け入れに前向きな姿勢を示している自治体は、神奈川県、埼玉県、千葉県、石川県、静岡県などにすぎない。環境省が2月に公表した資料によると、今回被災地域で臨時に発生した震災がれきの発生量は2600万トン。2009年度の全国の処理実績は4625万トンだから、膨大な量だ。
岩手県のがれき推定量は約476万トン、宮城県は約1569万トンに上る。これは宮城県の一般廃棄物の19年分、岩手県でも11年分に相当する。福島県は約260万トンと推定されているが、原発事故による立ち入りの制限区域が3月までに設定されているために、当面は県内で処理をする予定だ。環境省は2014年3月末までをめどに処理を完了するとしているが、遅れる可能性もある。
少数者の反対が感情的に
処理を遅らせているのは、反対論だ。ありえない放射能汚染の拡散を懸念し、反対を繰り返す人々が少数ながらいる。昨年夏の京都市の大文字焼きで、岩手県の被災地の松を燃やすことが反対によって断念された。それと同種の懸念だ。
受け入れ方針を示している静岡県島田市が、試験焼却するがれきを搬送した。そこで島田市の広報誌に掲載された以下の投書が話題となっている。
「今する支援は避難者の受け入れ、これ以上の放射性物質を増やさないことです。子供は大人の何十倍も放射能の影響を受けてしまうのに、あなたは子供にも強要するなんて瓦礫利権の金目当ての腐った人です」
「もはや、岩手県は日本の敵である。人にお願いをする時は静岡県民一人一人に頭を下げるべきなのに、偉そうな態度で上から目線で当たり前だと思っている。もはや人間のクズである」。
神奈川県の黒岩祐治知事は1月30日、神奈川県庁で、がれき受け入れで県民の理解を求める集会「対話の広場」に臨んだ。集会は3回目で、約220人の参加者でほぼ満席となった会場は異様な雰囲気に包まれた。
黒岩知事は被災地のがれきを受け入れている東京都のデータを基に「がれきの放射線量は低い」と繰り返した。そして「不安というのは想像が膨らんでいきますと、どんどん怖くなっていきます。その不安というものを解消するためには、正しい情報をしっかりとお伝えします」と発言。すると「うそ言うな!」とヤジが繰り返され、会場は騒然となった。反対派は「放射性物質を持ち込まないで」の一点張りだった。
黒岩知事は対話の広場終了後、記者団に対し、「罵声怒号を浴びても被災地を救いたいという私の心は折れていない。理解してもらうためにやり抜く」と話したが、実現への道は多難なようだ。(参考・河北新報記事)
ありえない放射能による障害
しかし被災地からのがれきで騒ぐのはとても非科学的だ。いま瓦礫が問題になっている岩手県釜石市は約260kmで、東京からの距離とほぼ同じ。宮城県、岩手県の空間線量も関東地方と変わらない。
東京二十三区清掃一部事務組合が宮城県女川市での震災がれきの焼却の実験結果について公表している。がれきを普通ごみと2割ほどまぜて燃やしたが。放射性物質は確認されていない。放射性廃棄物の移動は法律によって規制され、移動は100ベクレル/kg以下のものに限定されている。
原発事故後の放射性物質の広がりや放射性セシウム濃度といった科学的なデータを見ると、がれきの放射線量による健康被害はありえない。適正に処理されれば、生活圏で被ばく量は上昇しないということを、反対する人も冷静に理解するべきだ。
神奈川県黒岩知事のように「話し合う」ことを試みる良心的な首長もいる。行政側は情報を粘り強く発信し、不安を信頼に変えていく努力も必要だろう。

関連記事
-
この論文は農業の技術的な提言に加えて、日本の現状を分析しています。
-
原子力問題のアキレス腱は、バックエンド(使用済核燃料への対応)にあると言われて久しい。実際、高レベル放射性廃棄物の最終処分地は決まっておらず、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」はトラブル続きであり、六ヶ所再処理工場もガラス固化体製造工程の不具合等によって竣工が延期に延期を重ねてきている。
-
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 今回のテーマは食料生産。以前、要約において1つだけ観測の統計があったことを書いた。 だが、本文をいくら読み進めても、ナマの観測の統計がとにかく示
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
前稿まで、5回に渡りクーニンの「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?」を読み解いてきた。この本は今年3月に刊行された。 その後、今年7月末に「『気候変動・脱炭素』 14のウソ」という日本語の書が出版された
-
今年9月に避難指示の解除になった福島県・楢葉町民は、4年5カ月の避難生活で失った“日常”を取り戻せるのか。政府は、20回に渡る住民懇談会や個別訪問を通じて町民の不安に耳を傾け、帰還を躊躇させる障害を取り除くべく対策を講じてきた。国の支援策の主眼とは何か。高木陽介・経済産業副大臣(原子力災害現地対策本部長)に聞いた。
-
日本での報道は少ないが、世界では昨年オランダで起こった窒素問題が注目を集めている。 この最中、2023年3月15日にオランダ地方選挙が行われ、BBB(BoerBurgerBeweging:農民市民運動党)がオランダの1つ
-
ドイツのための選択肢(AfD)の党首アリス・バイゼルががイーロン・マスクと対談した動画が話題になっている。オリジナルのXの動画は1200万回再生を超えている。 Here’s the full conversa
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間