小泉進次郎氏でよみがえる民主党政権の悪夢

2019年09月14日 14:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

原田前環境相が議論のきっかけをつくった福島第一原発の「処理水」の問題は、小泉環境相が就任早々に福島県漁連に謝罪して混乱してきた。ここで問題を整理しておこう。放射性物質の処理の原則は、次の二つだ:

・環境に放出しないようにできるだけ除去する
・放出せざるをえないものは環境基準以下に薄める

世界の原発では、プルトニウムなど危険な核種を除去し、他の放射性物質は薄めて流している。福島第一原発でも事故の前はそうしていたので、事故後も同じ処理をすればよかったのだが、地元に配慮して多くの放射性物質を取り除く多核種除去設備(ALPS)を導入した。

これでトリチウム以外の放射性物質は除去できたはずだが、去年8月の公聴会で、トリチウム以外の核種もタンクの中に残っていることが問題になった。これはタンク内の濃度管理を説明していなかった東電のミスだった。 処理水ポータルサイトではこう説明している。

汚染水に関する国の「規制基準」は
①タンクに貯蔵する場合の基準、
②環境へ放出する場合の基準
の2つがあります。周辺環境への影響を第一に考え、まずは①の基準を優先し多核種除去設備等による浄化処理を進めてきました。そのため、現在、多核種除去設備等の処理水はそのすべてで①の基準を満たしていますが、②の基準を満たしていないものが8割以上あります。

当社は、多核種除去設備等の処理水の処分にあたり、環境へ放出する場合は、その前の段階でもう一度浄化処理(二次処理)を行うことによって、トリチウム以外の放射性物質の量を可能な限り低減し、②の基準値を満たすようにする方針です。

だからトリチウム以外は二次処理で取り除くことが原則だが、今タンクの中にある程度の量なら、薄めて流しても環境に影響はない。原子力規制委員会の更田委員長も、二次処理しないで薄めて流すことを容認しているが、東電はまだ最終的な処理方針を決めていない。

これが最大の問題である。小泉氏は「処理水の問題は(環境省の)所管外だ」といったが、実は経産省にも原子力規制委員会にも処理方法の決定権はない。決定の主体は東電である。違法な処理は国が禁じているが、合法的な処理をしないのは、東電の経営責任なのだ。

福島第一原発事故で東電の経営は破綻したので、事故処理については経営を分離して、国が責任を負う体制をつくるべきだった。だが原子力損害賠償・廃炉等支援機構という形で国が間接的に支援する体制をとったため、事故処理の責任が曖昧になった。

実質的に国有化された東電の経営者が、地元の反対を押し切って処理水の放出を決めることはできないので、国の決定を待っている。それを原子力規制委員会が「東電には主体性がない」と批判して、問題が行き詰まっている。

これを打開するために原田氏が「希釈して海に流すしかない」と発言したのは当然であり、小泉氏が「私も同じ意見だ」といえば、空気は変わった可能性もある。ところが彼は問題の元凶である県漁連に謝罪し、逆方向に舵を切ってしまった。

これは民主党政権で鳩山首相が、沖縄の基地移転について「最低でも県外」と発言し、今に至る大混乱の原因をつくったのに似ている。しかも小泉氏は県漁連に行く予定を正式の日程に入れず、環境省の事務方にも知らせなかったようだ。こんな大臣には、危なくて大事な情報は上げられない。これも民主党政権と同じだ。

小泉純一郎首相は、よくも悪くも古い自民党の意思決定をぶち壊し、日本の政治を変えたが、内閣の方針を超えて「原発ゼロ」をめざす進次郎氏のやり方は、「政治主導」を振り回して自滅した民主党政権への回帰である。

This page as PDF

関連記事

  • それから福島県伊達市の「霊山里山がっこう」というところで行われた地域シンポジウムに参加しました。これは、福島県で行われている甲状腺検査について考えるために開催されたものです。福島を訪問した英国人の医師、医学者のジェラルディン・アン・トーマス博士に、福島の問題を寄稿いただきました。福島の問題は、放射能よりも恐怖が健康への脅威になっていること。そして情報流通で科学者の分析が知られず、また行政とのコミュニケーションが適切に行われていないなどの問題があると指摘しています。
  • 菅首相が昨年末にCO2を2050年までにゼロにすると宣言して以来、日本政府は「脱炭素祭り」を続けている。中心にあるのは「グリーン成長戦略」で、「経済と環境の好循環」によってグリーン成長を実現する、としている(図1)。 そ
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 5月26日、参議院本会議で「2050年までの脱炭素社会の実現」を明記した改正地球温暖化対策推進法(以下「脱炭素社会法」と略記)が、全会一致で可決、成立した。全会一致と言うことは
  • 最近にわかにEV(電気自動車)が話題になってきた。EVの所有コストはまだガソリンの2倍以上だが、きょう山本隆三さんの話を聞いていて、状況が1980年代のPC革命と似ていることに気づいた。 今はPC業界でいうと、70年代末
  • 今回は、日本人研究者による学術論文を紹介したい。熱帯域を対象とした、高空における雲の生成と銀河宇宙線(GCR)の相関を追究した論文である(論文PDF)。本文12頁に、付属資料が16頁も付いた力作である。第一著者は宮原ひろ
  • 提携する国際環境経済研究所(IEEI)の竹内純子さんが、温暖化防止策の枠組みを決めるCOP19(気候変動枠組条約第19回会議、ワルシャワ、11月11?23日)に参加しました。その報告の一部を紹介します。
  • 1992年にブラジルのリオデジャネイロで行われた「国連環境開発会議(地球サミット)」は世界各国の首脳が集まり、「環境と開発に関するリオ宣言」を採択。今回の「リオ+20」は、その20周年を期に、フォローアップを目的として国連が実施したもの。
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ」を「カーボンニュートラル」と呼ぶ習慣が流行っているようだが、筆者には種々の誤解を含んだ表現に思える。 この言葉は本来、バイオマス(生物資源:

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑