COP19参戦記 — 失敗?日本の新目標発表、なぜ「今」だったのか
提携する国際環境経済研究所(IEEI)の竹内純子さんが、温暖化防止策の枠組みを決めるCOP19(気候変動枠組条約第19回会議、ワルシャワ、11月11−23日)に参加しました。その報告の一部を紹介します。
COP19 参戦記①−日本の新たな温暖化目標に関する評価
COP19 参戦記②−産業界の関与強化がカギ
この記事のIEEI版
反発を受けた日本案
現地時間11月20日午前11時過ぎ、石原環境大臣が国連気候変動枠組み条約交渉のプレナリー(本会議)において、演説を行った。2020年までのわが国の目標を、民主党政権が掲げていた1990年比25%削減に代わり、2005年比3・8%削減とすることを正式に発表し、あわせて、温暖化に向けた革新的技術開発に向け今後5年間で官民あわせて1100億ドル(約11兆円)の国内投資を目指すこと、途上国の温暖化対策支援に160億ドル(約1兆6000億円)を拠出することなどもあわせて表明した。

演説する石原伸晃環境大臣
COP参戦記①
で述べた通り、この新しい目標値に対しては当然のことながら強い反発があった。英国のエネルギー・気候変動大臣のエドワード・ダービー(Edward Davey)氏は安倍首相を本部長とする地球温暖化対策推進本部がこの新目標を了承したとの報を受け早々に非難するコメントを発した。環境NGOがCOP期間中毎日発行するニュースレターの11月16日号のトップタイトルは”Don’t Drop the Ball , Japan!(投げやりになるな、日本!)”であった。
国内事情で見直しは必然だったが…
しかし、どんな反発が予想されようと、目標値の見直しは必然であった。理由の一つは、そもそも1990年比25%削減という目標値は実現可能性が非常に乏しいものであった。鳩山首相(当時)が2009年9月の国連気候変動サミットでこの目標を発表した後に策定されたエネルギー基本計画は、そのつじつまを合わせるために、年限を2030年とした上で、再エネを19%、原子力53%に拡大するものであった。
もう一つには東京電力福島原子力発電所事故以降ほとんど全ての原子力発電が稼働を停止し電力の9割を火力発電に頼っている現在、大きな削減を実現する具体的手段はないことである。
問題は、「なぜ今だったのか?」だ。気候変動交渉に長く携わり、日本の状況にも詳しい海外の友人は「福島事故の後に目標値の見直しを発表すれば誰も何もいわなかったであろうに」と言う。
原子力発電所の停止が全国に及び、しかもここまで長引くとは当時誰も予想出来なかったであろうから、今になってそれを日本政府に求めても酷というものかもしれない。しかし少なくとも1990年比25%削減という目標は撤回せざるを得ないということについては明らかにしておくべきであったのではないか。震災直後であっても目標を撤回するのであれば、それに代わる新目標とその根拠を示すことを求められたであろう。
民主党政権のあやまったこだわりの悪影響
しかし新目標も原子力発電所の稼働がないという仮定の下に掲げたもので、見直しの可能性も付言している。そうであるなら震災直後に「目標の見直しは不可避。新目標は状況が落ち着いたら」で押し通すことも出来たのではないか。
当時の民主党政権は、看板政策であった「1990年比25%削減」にこだわり、震災直後のCOP17においてエネルギー政策の見直しについては言及したものの、この目標を撤回することは選択肢としてあまり議論されないままにタイミングを逃してしまった。
今となっては、諸外国の交渉関係者の間で東日本大震災が如何に甚大な被害をもたらしたかの記憶は薄れ、その後のエネルギー政策の混迷は理解されづらい。米国の気候変動特使は、日本の目標見直しを擁護しないとしつつも、日本が「特殊事情」にあることを理解せねばならないとコメントしているが、あくまで少数派である。
また、フィリピンの台風をきっかけに、気候変動の被害を受けるのはこれまで温室効果ガスをそれほど排出してこなかった途上国であり、日本を含めた先進国は率先して削減に取り組むとともに、途上国への技術・資金の提供を行うことが当然であるとの認識が今まで以上に強くなっていた。そして新目標の必要性を認識したことが、今回のCOPが持つ全体的な意義である。
明確な態度、そして説明が必要
COP19参戦記①に指摘した通り、今回のCOPは2020年以降の新たな枠組み構築を進めることが主要テーマである。その枠組みを再び京都議定書のように一部の先進国のみが削減目標を掲げる実効性に乏しい仕組みにすることを避けるため、中国やインドなどもはや大排出国となった「途上国」の参加を如何に引き出すかに交渉の全精力を注がねばならない。
2020年発効のための交渉期限とされる2015年に向けて各国がジャブをうちあっている今のタイミングで、なぜわざわざ火種を提供するような発表を行ったのか。先に紹介した英国エネルギー・気候変動大臣の批判や米国気候変動特使のコメントの根底には、そうした交渉の大きな流れを読み損ねた日本に対する苛立ちがあるような気がしてならない。
「東日本大震災から2年以上経って目標数値も持たずにいけば国際交渉でもたない」というコメントがよく聞かれる。しかし数年前繰り返された「日本が京都議定書第二約束期間に加わらなければ国際的に孤立する」というコメントを思い出す。
京都議定書の枠組みを継続することは地球温暖化対策の実効性を乏しいものとし続けるのみであることを理由に、日本はどのような条件であっても京都議定書第二約束期間にはいることはないとCOP16(2011年、コペンハーゲン)の場で宣言した日本の交渉官は、実は多くの国から「孤高の士」として評価された。
もちろんすぐに理解されたわけでも、全世界に評価されたわけでもない。しかし毅然とした態度と正当かつ丁寧な説明があれば理解を得ることは可能である。安易に誰にでも好かれようとする態度の方が理解されづらい。
2020年以降の枠組みが、全ての国の参加による実効性あるものとなるようにすることが先進国としてのわが国の責任であると考え、2020年の新枠組み発効に向けた交渉期限とされる2015年までをどのように過ごすか。長い時間軸と大きな視野で考える必要がある。
(2013年11月25日掲載)
関連記事
-
北朝鮮が核実験を行う意向を、1月28日現在で示しています。この実験内容について、東京工業大学の澤田哲生助教に解説いただきました。
-
昨年末の衆議院選挙・政権交代によりしばらく休止状態であった、電力システム改革の議論が再開されるようだ。茂木経済産業大臣は、12月26日初閣議後記者会見で、電力システム改革の方向性は維持しつつも、タイムスケジュール、発送電分離や料金規制撤廃等、個々の施策をどのレベルまでどの段階でやるか、といったことについて、新政権として検証する意向を表明している。(参考:茂木経済産業大臣の初閣議後記者会見の概要)
-
先日、和歌山県海南市にある関西電力海南発電所を見学させていただいた。原発再稼働がままならない中で、火力発電所の重要性が高まっている。しかし、一旦長期計画停止運用とした火力発電ユニットは、設備の劣化が激しいため、再度戦列に復帰させることは非常に難しい。
-
以前、米国のメディアは分断されており、共和党寄りのFox News等と、民主党系のCNN、MSNBC、ABC、CBS、およびNBC等に分かれていて、有権者はそれぞれ自分の属する党派のニュースが正しいと信じる傾向にあること
-
学生たちが語り合う緊急シンポジウム「どうする日本!? 私たちの将来とエネルギー」(主催・日本エネルギー会議)が9月1日に東京工業大学(東京都目黒区)で開催された。学生たち10名が集い、立場の違いを超えて話し合った。柔らかな感性で未来を語り合う学生の姿から、社会でのエネルギーをめぐる合意形成のヒントを探る。
-
欧州では電気自動車(EV)の販売が著しく落ち込み、関連産業や政策に深刻な影響を与えているという。 欧州自動車工業会(ACEA)の発表によれば、2024年8月のドイツにおけるEV新車販売は前年比で約70%減少し、2万702
-
今回は英国シンクタンクGWPFの記事と動画からの紹介。 2019年、Netflixのドキュメンタリー番組「Our Planet」の一場面で、数匹のセイウチが高い崖から転落して死亡するというショッキングな映像が映し出された
-
英国はCOP26においてパリ協定の温度目標(産業革命以降の温度上昇を2℃を十分下回るレベル、できれば1.5℃を目指す)を実質的に1.5℃安定化目標に強化し、2050年全球カーボンニュートラルをデファクト・スタンダード化し
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間














