新型コロナは「武漢ウイルス」ではなく「イタリアウイルス」だった
東京で7月9日に、新規感染者が224人確認された。まだPCR検査は増えているので、しばらくこれぐらいのペースが続くだろうが、この程度の感染者数の増減は大した問題ではない。100人が200人になっても、次の図のようにアメリカの新規感染者5万人に比べれば誤差の範囲だ。大事なのは医療資源と関連する重症患者で、わずか6人のままである。

FT.com
では第二波は来るのだろうか。これは専門家にもわからないが、コロナウイルスの感染という意味では、おそらく今年の秋以降、また流行するだろう。コロナは毎年はやっている風邪だが、ウイルスの種類によっては注意が必要だ。
今回はラッキーだったが、次も今回のような行き当たりばったりの感染症対策でうまく行くとは限らない。大事なのは、日本の被害が圧倒的に少なかった原因を解明することだ。
原因はイタリアで変異したG614ウイルス?
国立感染症研究所の調査では、3月に日本の感染が増えた原因は、EUで変異して日本に入ってきたウイルスだと考えられている。これは海外の専門誌でも確認され、Cellに掲載されたロスアラモス研究所の論文は、初期に武漢で発見されたD614から武漢でD614Gというタイプに変異し、それがイタリアでG614という新しいタイプに変わってスパイク(感染爆発)を起こしたと推定している。

図のように初期の武漢ではD614がほとんどだったが、3月にイタリアに入ってD614Gが増え、4種類の変異がそろってG614になってから感染力が増したという。G614への遷移はEUに始まり、北米、オセアニア、そしてアジアの順に拡大した。
G614の感染力(ウイルス感染価)はD614の2.6~9.3倍だとこの論文は推定している。もしそうだとすると、パンデミックを起こした原因は「武漢ウイルス」D614ではなく「イタリアウイルス」G614だったことになる。
日本の被害が軽かったのはEUから遠かったから
この場合は「武漢に近い日本でなぜ被害が少なかったのか」という問題設定が誤りで、イタリアから遠い日本で被害が少なかったのは当然だ。アジア経済研究所の熊谷聡氏は、EUから遠い国ほど死亡率が低いという事実に着目し、EUからの距離とGDPをかけた「重力方程式」で死亡率を推定している。
このモデルでは、世界のコロナ死者を加重平均した「感染の中心」はアフリカの西の大西洋上で、そこから遠くGDPの低い国ほど人の往来が少ないため、死亡率が低くなる。このモデルで説明できる値を右下がりの直線とし、各国の死者をプロットすると、おおむね右下がり(遠いほど死者が少ない)の相関がみられる。

この直線から下にはずれた国は、単なる距離では説明できない効果があると考えられる。たとえば直線から大きく下にはずれている日本(JPN)やシンガポール(SGP)は公衆衛生や医療の水準が高く、BCG接種の効果も統計的に有意である。
武漢発の「第一波」は普通の東アジアの風土病だったが、イタリアで変異した「第二波」が感染力の強いパンデミックだったとすれば、最大の問題は輸入感染である。日本は欧米からの感染を3月末まで検疫でチェックできなかったためG614の侵入を許したが、4月以降はそれを封じることができた。
この意味で第二波は終わったが、また変異して感染力の強いウイルスが秋に流行するかもしれない。今回たまたま日本は感染源から遠かったために大きな被害をまぬがれたとすると、今後は感染力の強いいウイルスが入ってくる可能性もある。水際対策が重要だ。
自然免疫などの「ファクターX」の効果はあると思われるが、それだけで被害を防げるわけではない。「世界中どこでも基本再生産数2.5で感染爆発する」などという幼稚なモデルではなく、こうした複雑な要因を勘案した感染症対策が必要である。
追記:7月9日の新規感染者数を更新した。
関連記事
-
GEPRは日本のメディアとエネルギー環境をめぐる報道についても検証していきます。筆者の中村氏は読売新聞で、科学部長、論説委員でとして活躍したジャーナリストです。転載を許可いただいたことを、関係者の皆様には感謝を申し上げます。
-
「口では福島支援と言いながらちっとも支援していない」。原子力規制委員会の田中俊一委員長は9月11日の記者会見で、福島第一原発事故の汚染水漏れで福島県や近県の水産物を敬遠する動きが国内外で強まっていることに不満を示した。
-
途上国からの要求は年間1兆ドル(140兆円!)に跳ね上がった。 全部先進国が撒いた種だ。 ここのところ先進国の代表は何を言ってきたか。以下のバイデン大統領のCOP27でのスピーチが典型的なので紹介しよう: 米国では、西部
-
ここ数年、日本企業は「ESGこそが世界の潮流!」「日本企業は遅れている!」「バスに乗り遅れるな!」と煽られてきましたが、2023年はESGの終わりの始まりのようです。しかし「バスから降り遅れるな!」といった声は聞こえてき
-
米国の商業用電力消費の動向 さる6月末に、米国のエネルギー情報局(EIA)が興味深いレポートを公表した※1)。米国で2019年から23年の4年間の商業用電力消費がどの州で拡大し、どの州で減少したかを分析したものである。ち
-
トランプ大統領のパリ協定離脱演説 6月1日現地時間午後3時、トランプ大統領は米国の産業、経済、雇用に悪影響を与え、他国を有利にするものであるとの理由で、パリ協定から離脱する意向を正式に表明した。「再交渉を行い、フェアな取
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 IPCC報告では、産業革命が始まる1850年ごろまでは、
-
新聞は「不偏不党、中立公正」を掲げていたが、原子力報道を見ると、すっかり変わった。朝日、毎日は反対、読売、産経は推進姿勢が固定した。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間













