本当にフェイクなのは誰か? 異論を封じる「気候正義」が科学を壊すとき

2025年06月28日 06:50
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元静岡大学工学部化学バイオ工学科

sharply_done/iStock

政府とメディアが進める「一方通行の正義」

環境省は「地球温暖化は起きていない」といった気候変動に関する「フェイク情報」が広がるのを防ぐため、20日、ホームページに気候変動の科学的根拠を紹介する特設ページを設けたそうだ。

環境省 気候変動に関するフェイク情報拡散防止で特設ページ

浅尾環境大臣は「科学的根拠のない情報が広がることはゆゆしき問題で分かりやすい発信を行っていく」と述べたとか。

実はその前の14日(土)夜9時のNHK「サタデーウォッチ9」でも、「地球温暖化が人為的理由で起こっていることは事実であり、それを疑問視する「根拠ない主張」が流行っているのは由々しき問題だと指摘していた。

その話は、気象庁の発表する「線状降水帯」の予測が大きく外れている原因を追究している特集の後に出てきた。しかし、これは変な話だ。短期間の比較的狭い範囲の「線状降水帯」の予測が難しいのなら、もっと広範囲の長期間にわたる「地球温暖化」の方が解明や予測がもっと難しいだろうとするのが、普通の考え方であるはずなのに、温暖化の方は間違いがなくて疑問視するのがおかしいと「上から目線」で断定しているのだから。

その後の21日には東京新聞でも「脱炭素社会へ 1.5℃の約束」と題してかなりの紙面を割き「『気候変動は人間活動が原因ではない』などの偽情報が世界のインターネットで増殖している。偽情報を信じて人々が危機感を抱かなければ、気候変動を食い止めようとする動きは遅れてしまう」と、大々的に報じている。そしてご丁寧にも「気候変動は人間活動が原因ではない」との標語に大きな赤×をつけ「うそ」「フェイク」のレッテル貼りまで行っている。

どうやら、政府は大手マスコミを総動員して、人為的地球温暖化説への疑問あるいは否定論を何としても抑えつけてしまいたいようだ。これまでは「完全無視」で済んでいたものが、最近のトランプ政権によるパリ協定離脱など、雲行きが怪しくなってきたので、国連やIPCCなどにも焦りが生じているのだろう。上記の東京新聞記事にも「国連が交流サイト(SNS)のサービス基盤(プラットフォーム)などに対策を求めている」とある。

上記NHKやその他マスコミ報道に共通しているのは、温暖化に関する疑問や否定を全て「根拠のない」「偽情報」と決めつけている点だ。それらの記述自体には何の留保条件も根拠もつけないで、なぜ自分たちの主張だけは無条件に正しいと断定できるのだろうか? 少なくともこれは、科学の正しい態度ではない。真正科学は、異論反論もすべて受け入れ、それが正しいかどうかを、謙虚に真剣に吟味するものであるから。

環境省HPは古い情報の焼き直し:温室効果ガス論の矛盾と最新研究の不在

ではここで、その環境省の特設ページを拝見しよう。実は、ニュースの出た20日時点では、そんなページは載っていなかった。実際は、NHKの報道画面に出てきた「気候変動で私たちの生活はどう変わる?」は、2021年3月に地球環境局が作成した「パンフレット」だったからだ(「気候変動影響評価書」となっている)。つまりNHKは4年も前の資料を掲げていたことになる。

そして25日になって、環境省トップページの右下隅に「加速する気候変動 私たちの未来のために今できること」という題の特設欄が設置された。しかしその内容は、これまで掲げられてきたものの再掲にすぎず、新鮮味は何もない。

相も変わらず「近年発生した気象現象」の例を挙げて「人為的要因によって気候変動が加速」と書きながら、その「科学的証拠」は示さずに、単に「人為的要因によるものだと考えられています。」で済ませている。これでは、単に「伝聞」をそのまま伝えているだけだ。しかも右下に小さく「STOP THE温暖化2008」(環境省)参照と書いてある。17年も前に作った資料の焼き直しというわけだ。新鮮味がないのは当然だろう。

新鮮なデータ・知見と言うならば、例えば杉山大志氏の近著「データが語る気候変動問題のホントとウソ」でも読まれることをお勧めしたい。この4月に出たばかりで、各種データ(気象・環境観測、社会統計)、数値モデルによるシミュレーション、エネルギー政策等々、充実した内容なので。ここに書かれている内容まで「フェイク」と言い立てる人もいるかも知れないが、データの事実は変えられない。

環境省HPに戻ると、その後は「温室効果ガスが気候を変える」で、温室効果の仕組みなどを解説しているが、色々と突っ込みどころ満載だ。

まず「排出される温室効果ガスの90%以上を二酸化炭素が占めています。」とあるが、これは正確でない。最大の温室効果ガスは水蒸気であり、IPCCなどは「水分収支は自然界で一定だから考慮する必要なし」と言って切り捨てているが、最近の研究では人間活動由来の水分蒸発が自然界の水収支に影響があることが示されている。

Role of Humans in the Global Water Cycle and Impacts on Climate Change

その研究によれば、20世紀後半以降に人為的要因(灌漑、冷却塔など)により4兆トンの蒸発量増加があり、その分、降水量も増えたとある。降水量の増加を何でも「異常気象」と片付ける石頭思考では、気候変動の解明自体も難しくなるだろうに。

また、2022年のフンガ・トンガ火山の海中大噴火が成層圏にもたらした水蒸気量は全体の10%にも相当し、強力な温室効果ガスである水蒸気がこれだけ増えたら気候に影響してもおかしくない。実際、噴火後の2023〜24年には世界的高温が観測され、その高温はエルニーニョ現象だけでは説明できないが、この水蒸気量の増加で説明できるとする説がある(その科学的議論はまだ決着していないが)。

このように、温室効果ガス一つをとっても、最近の研究で明らかになってきたことは多いのに、環境省の説明はまるで旧態依然のままなのだ。

さらに、「二酸化炭素はどこから?」では、34%の産業部門、18.5%の運輸部門、17.3%の業務その他部門を押しのけて15%の家庭部門を真っ先に挙げている。これは何の意図なのか? しかも、これは日本国内だけの話であり、日本のCO2排出量が世界の3%に過ぎないことなどは、一言も触れていないのだ。「気候変動」は、日本だけでなく世界・地球的な問題だろうに。

次に「気候変動に対してできること」がある。「広がる気候変動の影響」を、気候の変化と自然環境への影響、人間社会への影響として紹介し、気候の変化は人間社会に深刻な影響をもたらす、とは書いてあるが、それが大気中CO2濃度の増加とどのように関連しているかの説明は、実は全くない。つまり、気候変動に関する最も大切な部分の解明・説明が欠けている。

その基本的メカニズムの説明が皆無なのに、次の「私たちにできることの例」として、温室効果ガス排出削減による「緩和」と、影響の回避・軽減などの「適応」があると書いてある。つまり、肝心の「温室効果ガスが気候変動にどう効くか」を説明していないのに「これを少なくすれば効く」と述べているに等しく、論理的には成り立っていない。

「気候変動の科学」のコーナーでも「科学的知見についての情報をまとめた」とあるが、どこを探しても「気候変動に大気中CO2濃度の増加がどのように効くか」の科学的・定量的なメカニズムの説明は出てこない。

先に種明かしをしておくと、それは無理もなくて、「大気中CO2濃度の増加が地球温暖化を招き、その結果、気候変動が起きる」ことを証明した科学論文は存在せず、CO2温暖化説はコンピューター計算モデルで作られた仮説に過ぎないからだ。

多くの人たちが有難くたてまつる「IPCC報告書」にさえも、真に科学的な証明は書かれていない。「間違い無さそう、疑いの余地はない」などとは書かれているが、それを裏付ける「本物の証拠」は、どこを探しても見当たらないのだ。この記述を疑う方は、報告書本体をご覧になると良い。読むだけでも大変ではあるが。

AR6 Synthesis Report: Climate Change 2023

IPCCのCO2温暖化論は、2021年にノーベル物理学賞を受けた真鍋淑郎氏ら4人のモデラー(気候モデルを作成し、それをコンピューターモデルに変換する技術者)によって1960〜80年代に作られた。

その過程は気候研究者・木本協司氏が「地球温暖化『CO2犯人説』は世紀の大ウソ」(2020年宝島社刊)の中の「科学者たちの仮説と反駁の120年史 CO2温暖化説はどうして誕生したのか?」と言う章に詳述されている。

やや専門的な内容だが、この説がどのようにして生まれたかを非常に分かりやすく説明している。そして、真鍋基本論文で用いられた「気温減率(=高度とともに気温が低下する割合)は一定」という仮定が、実際には大きな計算誤差を生むことが何人もの研究者に指摘されていたにも拘わらず、IPCCがこれを採用し、科学的には証明されていないCO2温暖化説が世界的に広まるきっかけになったと述べている。

なお、木本氏はアゴラにも「日本を覆う「脱炭素」の誤りについて」との論説を発表されており、詳しい図解があって非常に分かりやすい。これも是非多くの方々にお読みいただきたい。

「気候変動科学」が抱える根本的問題

さて、国連事務総長や北欧のグレタ嬢などが言う「科学の言うことを聞け」における「科学」とは何を指すのか? それは、これまで私が挙げてきたような科学データと推論ではなく、主にIPCCの科学者たちが愛用してきた、コンピューター・シミュレーションによる予測結果である。マスコミ等によく載る「今世紀末には3〜5℃もの気温上昇が起きる」とやらの御宣託も、その「成果」である。

しかし、このコンピューター・シミュレーション予測には、現実には多くの問題がある。大きく分けても、1)気候モデルそのものの問題、2)計算手法・方法に関わる問題、3)この種の計算自体に関わる数学的な問題があり、いずれも高度に専門的な問題なのでマスコミ等にも出てこないが、温暖化予測というのは世の多くの人々が考えているより、遙かに不確実なものであることは知っておいて良い。

その辺の事情は、中村元隆「気候科学者の告白 地球温暖化は未検証の仮説」に詳しい。気候研究界の内部事情が良く分かる。私はこの本から教えられたことが多かった。

これらコンピュータ・シミュレーションの世界では、「チューニング」つまりモデルに含まれる各種の変数(パラメーター)を「調整」つまり数字を適当にいじって変え、それらしい結果が出るようにするという行為が普通に行われる。そうしないと、しばしば計算結果が「発散」したり、意味のない結果が出てくるからである。身も蓋もない言い方になるが、それが事実なので仕方がない。

つまり、コンピューター・シミュレーションと言うのは、変数をいじることでどんな結果でも導くことができるので、研究者の数だけ予測例があるのが現実だ。実際、クーニンが書いた本「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?」には、世界中の19のグループが作った29の異なるモデルによる267種類のシミュレーション結果は全部違っており、しかも過去の温暖化も再現出来ていなかった、と書いてある(その図も載っている)。

真正科学の重要な条件は、再現性(同じ条件で試したら誰でも同じ結果が出ること)や、認証可能性、or 明証性(間違ったら、それが認識できること)であるが、この種のコンピューター・シミュレーションでは明らかにこれらの条件が満たされていない。研究者の数だけ結果があり、しかも計算過程も検証できないのだから。故に、これらは真正な科学とは認めがたい。つまり、国連事務総長やグレタ嬢の言う「科学」は、「似非科学」に過ぎないと私は思う。

またコンピューター・シミュレーションを用いた研究手法にEA(イベント・アトリビューション)がある。新聞などに良く載る「もし温暖化がなかったら生じなかったはずの災害・猛暑」などの主張は、このEAによるものである。「温暖化のために、それが無い時に比べて被害が何倍も増えた」等の主張もその一種だ。

しかし、これらは元々、モデル・シミュレーションに強く依存している。「もし、こうでなかったなら」という仮定と再現は、仮想的世界の中の出来事に過ぎず、これらの結果はすべてシミュレーションによるものなので、上記の困難をそのまま抱えているからである。この事実を隠して、あたかも現実世界の話のように伝えるマスコミの罪は重い。

折しも「先週の猛暑は『温暖化がなければ起こり得なかった』東大・京大の研究者」との報道記事が出た。この記事にはEAを使用したと明記してある。またもや、学者とマスコミは罪の重ね塗りをした、ということか?

こうして、人為的地球温暖化説に関しては、その科学的根拠を掘り下げて尋ねてゆくと、どこまで行っても「真相」にはたどり着かず、結局は環境省も含めて多くの人たち、マスコミ人たちも含め全て、「IPCCがそう言ってるから」で思考停止していると言うのが実情だと、私は見ている。そのくせ、これに難癖をつけると「根拠のないフェイクニュース」と言い立てるわけだ。実に始末が悪い。

異論を封じる時、科学は宗教になる

私はこれまでも、この種の話題について幾つもの記事を書いてきた。例えば下記の通り。

今回書いた内容はそれらと一部重複しているが、お許し願いたい。これらで主張していることはただ一つ、科学的な知見を偏見なく吟味して、その結果正しいと認めたなら素直に受け入れて欲しいということだ。冒頭に紹介した報道には、そうした姿勢が全然ないことが問題なのだ。

ここで思い出すのは、青柳貞一郎氏が昨年10月の「紙の爆弾」に書かれた「日本にも進出する情報統制機関 政府・企業・組織『検閲産業複合体』の脅威」と言う記事だ。

元々は米国内に現れた現象Censorship industrial complexの訳語で、政府機関、学術機関、非政府組織などの拡大ネットワークが複合体を形成し、豊富な資金を元に政府や権力者にとって都合が悪いとされる情報を検閲・削除するとともに、民衆が信ずるべき「情報」を作成・拡散させる機能を持つとされる。具体的には、ワクチン、気候変動、再生可能エネルギーなどに関する情報が対象にされた。

これらは、日本でもほぼ同じ状況なのではないかと私は思う。実際、コロナワクチンと気候変動・脱炭素、あるいは財務省関連などの言説は、大手マスコミではその内容が相当に制限されており、一方的な情報を流し続けて人々を騙すやり口は、驚くほど同質的なのだ。

故に、以前私が書いた「気候ファシズム」は、今は「香り」などではなく、実質化してきたと見て良い。その意味で、私は強い危機感を抱いている。真実を求めて声をあげ続けなければ、「検閲産業複合体」に圧殺されてしまうだろう。我々の武器は、ペンと声=言論だけであるから。

私は、地球温暖化の科学について、NHK等の大手マスコミで「公開討論会」を開いたら良いと思う。それぞれの立場からデータや意見を持ち込んで、討論したら良いのだ。

温暖化の問題は、実はそんなに込み入った話ではない。信頼できる実測データ、例えば地球気象のデータベースであるClimate4youや、地球気温の衛星観測データを示すロイ・スペンサーのサイト、あるいはハワイ・マウナロア山のCO2観測データなどを参照し、あとは割と簡単な計算や解析だけで判断がつく。自分の頭で考え、自分で調べてみるかどうかだけの問題である。

本物の科学は、実はシンプルな姿をしている。仮説を実験や検証で確かめ、反証に耐えられた事実だけが生き残るからだ。

変な形になるのは「科学の衣を着た政治的プロパガンダ」になった時である。具体的には、異議・反論を封じ込め、許さない態度をとる場合である。この時、科学はカルト宗教に変わる。例えば「地球温暖化真理教」のように。

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