米国の気候作業部会報告を読む⑨:それは本当にCO2のせいですか

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(前回:米国の気候作業部会報告を読む⑧:海面上昇は加速していない)
気候危機説を否定する内容の科学的知見をまとめた気候作業部会(Climate Working Group, CWG)報告書が2025年7月23日に発表された。
タイトルは「温室効果ガス排出が米国気候に与える影響に関する批判的レビュー(A Critical Review of Impacts of Greenhouse Gas Emissions on the U.S. Climate)」である。
今回は、「8章 気候変動への帰属に関する不確実性」について解説しよう。
以下で、囲みは、CWG報告書からの直接の引用である。
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この8章は長大な章である。テーマは、何かが観測されたときに、それが自然変動(ノイズ)と区別のつくシグナルであるかどうか(検出)、そしてそれが人為起源の気候変動のせいであるかどうか(帰属)、ということにまつわる不確実性である。
まず、IPCCは19世紀後半から今日にかけて起きた気温上昇約1℃は、ほぼすべてがCO2など(正確には温室効果ガスとエアロゾル)に起因するとしているが、これは仮説に過ぎない、ということをCWGは論じている。
太陽活動が大きく変化したことで、この気温上昇の大半が説明できる可能性についてはすでに前の章でも触れた。加えて、この章では、エルニーニョのような地球の大気・海洋システムの振動(自然の内部変動)も大きな寄与をしているのではないか、という論文を紹介している。
1950年以降の気候帰属分析において、大規模な太平洋での気候シフトを考慮すると、20世紀後半の温暖化の40%以上が自然内部変動に起因すると推定されています(McLean et al., 2009; Tung and Zhou, 2013; Chylek et al., 2016; Scafetta, 2021)。
また、2015年以降に衛星観測された大幅な地球の反射率(アルベド)の減少についても紹介している。図8.2を見ると、アルベドは、0.5%程度減少していて、これは主に雲の減少によると考えられている。この雲量の減少が人為的な気候変動によるとする意見もあるが、単なる自然変動であるという意見もあり、現状では両論が並んでいる状態である。

図8.2 季節変動を除いた地球のアルベド(反射率、%)
HansenとKarecha(2025)
惑星のアルベドの低下と雲量の同時的な低下は、雲とその変動が全球気候の変動と変化に与える重要性を浮き彫りにしています。全球の雲量の変化が1~2%変化すると、二酸化炭素の濃度を2倍にした場合の直接的な放射効果よりも、気候への放射効果の方が大きくなります。最近の傾向の原因を解明することは困難ですが、雲量減少の原因に関する競合する説明は、均衡気候感度(ECS)の評価および最近の温暖化の原因帰属に重大な影響を及ぼします。追加の10年間のデータは、これが温暖化に伴う強い正の雲フィードバックか、自然変動による一時的な変動か否かを明確にするのに役立ちます。
なおこのアルベドの観測結果については正確性が無いという意見もあることを補足しておこう。
いずれにせよ、地球温暖化の原因を温室効果ガスとエアロゾルだけに帰属させることには、太陽活動の効果、自然の内部振動、雲量の自然変動など、いくつも留保がつく、ということをCWGは論じている。
さてIPCCは、異常気象について、人為的気候変動による激甚化は起きていないか、起きているとしても誤差のうちに過ぎないことをまとめている。表8.1のセルの大半が空白であることは、シグナルがノイズを下回る、つまり「起きていないか、起きているとしても誤差のうちに過ぎない」ことを示している。
第6章で議論されたように、極端な気象システムのパターンは自然変動が支配的であり、単純な傾向検出の主張は地域的な異質性や時間経過に伴う傾向の逆転によって頻繁に否定されます。表8.1は、現在のところ、ほとんどの極端な気象タイプの変化を人間の影響に帰属させることは不可能であることを示しています。風を例に取ると、IPCCは、平均風速、激しい風嵐、熱帯低気圧、砂塵嵐において、人為的な信号は現れておらず、極端な排出シナリオ下でも今世紀中に現れることは期待されていないと主張しています。同じことが干ばつと火災気象にも適用されます。

表8.1 IPCC AR6作業部会I報告書表12.12の列1の再掲。
歴史的期間における気候影響要因(CID)の人為的シグナルの出現を示す。
白:シグナル未検出。青とオレンジ:変化検出(減少または増加)と色凡例に示された信頼水準。
数値は特定の地域と信頼水準を指す
詳細な注記は原表を参照。
ところが、IPCCは、異常気象について、異なる見解も出しており、一貫性がない。これは内部で意見が異なったためであろう、とCWGは述べている。
IPCCの極端な気象現象と気候イベントの帰属に関する取り扱いをより広範に検討すると、AR6は人為的な温暖化の影響に関する評価において、章ごとに異なる曖昧な結論を示しています。WG1の第11章では(Seneviratne et al., 2021)次のように述べています:
観測された極端な気象現象の変化とその人間活動(温室効果ガスやエアロゾルの排出、土地利用の変化を含む)への帰属に関する証拠は、AR5以降強化されており、特に極端な降水、干ばつ、熱帯低気圧、複合極端現象(乾燥/高温イベントや火災気象を含む)において顕著です。一部の最近の極端な高温イベントは、気候システムへの人間の影響がなければ、極めて発生し得なかったと考えられます。
一方、WG1の第12章第8.5節(表12.12)では異なる状況が描かれています。おそらく、2つの章の執筆者グループの間で専門家の判断が異なったため、結論が異なったと考えられます(Ranasinghe, 2021):
- 熱帯地域で観測データから傾向推定が可能な地域および中緯度地域のほとんどで、極端な熱波の増加について高い信頼度。その他の地域では中程度の信頼度
- オーストラリア、アフリカ、および観測データから傾向推定が可能な南米北部の大部分において、極端な寒波の減少について中程度の信頼度
- 歴史的期間において、河川の洪水、集中豪雨、干ばつ、火災気象、激しい風暴、および熱帯低気圧の変化を示す証拠は存在しない
この前者の11章の見解は、特定の気象が気候変動に帰属されるかどうかといういわゆる「事象帰属研究(イベント・アトリビューション研究)」の結果をまとめたものだ。ところが、このイベント・アトリビューション研究には問題が多いことをCWGは論じている。
極端な気象現象の変化の検出とその原因の特定に関する全体的な問題は依然として不明確であるが、この分野における活動のほとんどは、特定の極端な気象現象の原因の特定に関連している。最も注目される取り組みは、極端な気象現象の帰属分析を目的とした国際的研究イニシアチブである「World Weather Attribution(WWA;worldweatherattribution.org)」です。彼らは、気候変動が極端な気象現象の発生確率と強度への影響を分析するとしています。そのアプローチは、地域の気候モデルの大規模なアンサンブルを用いて、現在の気候下での現象と、人間の影響のない産業革命前の気候下での現象を比較するものです。
WWAは、極端な気象現象と気候変動の関連性を指摘する点で、公衆や政策議論において目立った存在感を示しています。そのプレスリリースは、公衆や政策議論において大きな注目を集めています。しかし、WWAが非査読済みの研究結果を積極的に宣伝していること、分析を訴訟目的に合わせることを公然と認めていること、および方法論上の課題が指摘されており、批判者からは結論の信頼性や中立性が疑問視されています(Pielke Jr. 2024)。これらの問題にもかかわらず、WWAの活動は気候科学とメディアの物語に引き続き影響を及ぼしています。アプローチに対する技術的な批判には、正式な検出プロセスの欠如;産業革命以降の温暖化の100%が温室効果ガスによるものという暗黙の仮定;および内部気候変動の適切な考慮の欠如が含まれます。
CWGは、イベント・アトリビューション研究の問題点について、一般的に論じた上で、状況を端的に示すものとして、米国におけるケーススタディを紹介している。なお以下を読むときには、華氏2℉=摂氏1℃であることを覚えておくと、気温差が感覚的によく分かる。
ケーススタディ – 2021年西部北米熱波
2021年西部北米熱波は、2021年6月下旬に西部北米の大部分を襲った極端な気象現象です。オレゴン州ポートランド(116℉;以前の記録は107℉)とワシントン州シアトル(108℉;以前の記録は103℉)で地表温度の記録が更新されました(Mass et al., 2024)。
WWAチームは分析結果を発表し、国際的な注目を集めました。その分析では、以下の帰属声明が示されました(WWA, 2021; Philip et al., 2022):
- 観測とモデル化に基づき、この熱波の発生は人間による気候変動がなければほぼ不可能だった。
- このイベントは、現在の気候下では約1000年に1度のイベントと推定されています。
- 人間による気候変動がなければ、この現象は少なくとも150倍稀なものであったでしょう。
- この熱波は、産業革命の開始時(現在の全球平均気温より2℃低い時期)に発生した場合と比べて、約2℃高かった。
しかし、最初の主張に対する重要な反論として、他の研究者は歴史的な気象データから、観測された規模の熱波は人為的な気候変動なしではほぼ不可能であったが、気候変動があってもほぼ不可能であったと結論付けています。Bercos-Hickey(2022)は「これらの気温は、地球温暖化があってもなくても、過去に経験されたいかなる気象条件下でもほぼ不可能であった」と指摘しています。McKinnonとSimpson(2022)は「最も可能性の高い説明は、気象現象そのものが『不運』だったということである」と述べています。2023年のオレゴン州気候評価(Fleischman, 2023)は、気候変動がなくても熱波は発生していたと結論付け、さらに「熱波を引き起こした極めて異常な気象条件の組み合わせが気候変動によってより可能性が高まったことを示す証拠はなく、気候モデルは太平洋北西部における高気圧脊の頻度増加を予測していない」と結論付けています(Fleischman, 2023, p. 49)。
2021年の西部北米熱波は、100年以上の記録を最大9℉も更新する、稀有で前例のない複合気象現象でした。WWAチームは、人為的な気候変動を原因とする迅速な原因特定主張で世界的な注目を浴びましたが、その後の査読付き分析では、この現象は地球温暖化によって確率が高まったわけではない稀な気象条件によって引き起こされたことが示されました。
つまりこの件は、熱波が発生してすぐに「人為的気候変動が無ければ起き得なかった」という発表がなされ、メディアでも大きく取り上げられたが、誤報に過ぎなかったということだ。
本章に関しては、筆者も関連する記事をいくつか書いてきたので、詳しくは以下を参照されたい。
- 太陽活動の大きな変化が気温上昇に寄与した可能性について
- 自然の内部振動が気候変動に寄与した可能性について
- 異常気象の激甚化は起きていないか誤差の内だとするIPCCの表について
- イベント・アトリビューション研究への批判について
【関連記事】
・米国の気候作業部会報告を読む①:エネルギー長官と著者による序文
・米国の気候作業部会報告を読む②:地球緑色化(グローバル・グリーニング)
・米国の気候作業部会報告を読む③:海洋酸性化…ではなく海洋中性化
・米国の気候作業部会報告を読む④:人間は気候変動の原因なのか
・米国の気候作業部会報告を読む⑤:CO2はどのぐらい地球温暖化に効くのか
・米国の気候作業部会報告を読む⑥:気候モデルは過去の再現も出来ない
・米国の気候作業部会報告を読む⑦:災害の激甚化など起きていない
・米国の気候作業部会報告を読む⑧:海面上昇は加速していない
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