排出量取引制度の直撃を受ける自治体ランキング

Anass Bachar/iStock
前回、前々回と書いてきたように、政府は排出量取引制度の導入を進めている。
この制度の下では、事業者は排出権が無ければCO2を排出することができない。制度の名前こそ「取引制度」となっているが、その本質は排出量の「総量規制」である。
日本は、2050年CO2排出ゼロをゴールとして、2013年を起点として、2030年に46%、35年に60%、40年に73%という極端なCO2削減目標を掲げている。
かかる状況下で排出量取引制度を導入するということは、石炭火力発電がその最大の標的となる。この制度が導入されれば、石炭火力発電所は次々と閉鎖に追い込まれていくことになるだろう。
火力発電所は、特に地方においては、重要な経済の柱になっていることが多い。火力発電所が一つあれば、その建設時はもちろん、運転時においても、設備を維持管理するために、多くの人々を雇用する。工事を請け負う事業者への収入ももたらされる。
それでは、石炭火力発電所が閉鎖されるとなると、その経済的影響を最も受けるのはどの自治体であろうか?
火力発電所が閉鎖に追い込まれても、他に産業を有する裕福な自治体であれば、悪影響は吸収できるかもしれない。だが、他にさしたる産業の無い小さな自治体ではそうはいかないだろう。
そこで、発電所による地元の「仮想的な収入」を計算して、それをその地元自治体の税金収入と比較することで悪影響の大きさの指標を作りランキングをしてみた。
ここで「仮想的な収入」とは、以下のように計算している:まず、発電所の設備利用率を65%と想定し、卸電力への電力売上単価を1kWhあたり10円として、その発電所の1年間の電力の売上高を計算する。そのうち80%は燃料の購入や発電所の設備償却などに充てられるので地元には落ちないが、運転維持費にあたる20%は地元の収入となる、と仮定する。これが「仮想的な収入」である。それは主には地元の事業者や労働者の収入となり、一部は固定資産税などの市の税収となる。
このような計算をすると、例えば100万kWの発電所であれば、電力の売上高は毎年569億円となり、地元の仮想的な収入は114億円となる。発電所が一つあることで、毎年114億円もの収入が地元にもたらされる訳である。
そして発電所ごとに計算された「仮想的な収入」を、その発電所が立地している市(ないし町村)の市税収入と比較して、両者の比である「仮想敵な収入÷市税」を指標としてランキングをする。
結果は表のようになった。

上位に並んでいるのは、北海道厚真町や長崎県松浦市など、100万キロワットを超えるような大規模な石炭火力発電所が立地している自治体である。第21位の愛知県知多市に至るまで、この仮想的な収入は、市税を上回る100%以上の数値となっている。つまり、これらの自治体については、石炭火力発電所の閉鎖は、市税が吹き飛ぶぐらいの経済的な悪影響があるということだ。
これ以下のランキングについても、46位の北海道北斗市に至るまで、仮想的な収入は市税の10%以上となっている。するとやはり、これが失われることは、市の経済にとって大きな悪影響があるだろう。
政府や電気事業者の公式の説明では、今後、石炭火力発電所は、改修や建替えを行うことで、CO2排出の少ない石炭火力発電所に置き換えていくとしている。それは例えば、CCSと言って、CO2を発電所から回収して地中に埋めるという発電所であったり、あるいは、アンモニア混焼発電と言って、アンモニアを石炭と混ぜて燃やすという発電所である。
だがこれらの技術は、前回にも詳しく述べたように、大変なコストがかかる。したがって、日本の全ての石炭火力発電所がこれで置き換えられると考えることは全く非現実的である。せいぜい、ごく一部がCCSやアンモニア混焼に置き換えられるだけであり、ほとんどの石炭火力発電所については、排出量取引制度が導入されると、事業者の投資判断の結果として、消えて無くなってゆくと考えるのが妥当であろう。
このリストに名前が挙がっている自治体の方々は、地元の石炭火力発電所が失われていくことが、いかに自治体に対して大きな経済的な打撃を与えるかを十分に理解して頂きたい。このまま政府の予定通りに排出量取引制度が導入されれば、それは自治体の経済を直撃することになる。
地域経済を破壊する排出量取引制度の導入は延期すべきだ。
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