「脱炭素」から「低炭素」へ:小林鷹之氏が暴く日本のエネルギー政策の欺瞞
自民党の小林鷹之氏が、高効率石炭火力の海外輸出支援の必要性を訴え、「カーボンニュートラルに過度に拘泥」せず、より現実的に動くべきだとの立場を示した。

衆院予算委員会で発言する自民党・小林鷹之議員
衆議院インターネット審議中継より
本人の発信でも、日本は2020年に新たな海外石炭火力への公的支援を原則やめたが、なお石炭依存を避けられない国々に対しては、高効率技術の輸出で支援すべきだという趣旨が明確に述べられている。
この発言に対しては、「脱炭素に逆行する」「石炭回帰だ」といった反応が出ている。しかし、そうした批判の多くは、現実のエネルギー需給ではなく、きれいごとのスローガンに依拠しているように見える。むしろ小林氏の発言が突いたのは、日本のエネルギー政策が長らく抱えてきた建前と本音の乖離ではないか。
日本政府は2025年2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画で、従来どおり「S+3E」、すなわち安全性、安定供給、経済効率性、環境適合の同時達成を基本原則に掲げている。資源エネルギー庁の解説でも、世界的なエネルギー安全保障上の不安定化や、今後の電力需要増への対応を踏まえ、安定供給と脱炭素の両立が必要だと繰り返している。つまり政府自身が、脱炭素だけでは政策は回らないと認めているのである。
ところが、現実にはその「両立」という言葉が、しばしば脱炭素優先を覆い隠すための方便になってきた。
再エネを最大限導入すると言いながら、火力を残さなければ需給は持たない。化石燃料依存から脱却すると言いながら、燃料価格の高騰は直ちに電気料金の上昇に跳ね返る。データセンターや半導体工場の新増設で電力需要が増えると見込まれている一方、安定供給の基盤である火力の役割は、まだ容易に代替できない。
要するに、日本は「脱炭素」を唱えながら、実際には火力に支えられている。その現実を直視せず、石炭という言葉だけを道徳的に排除してきたところに、いまの議論の不誠実さがある。
しかも、途上国や新興国にとっては、この問題は日本以上に切実だ。十分な電力がなければ、産業は育たず、雇用も生まれず、生活水準も上がらない。先進国が自国では化石燃料の恩恵を受けて豊かになってきたにもかかわらず、これから発展しようとする国々に「石炭はけしからん、再エネだけで行け」と迫るなら、それは環境政策というより、発展段階の違いを無視した押しつけである。
ここで問うべきは、「石炭か脱炭素か」という幼稚な二項対立ではない。旧式の石炭火力を放置するのと、日本の高効率技術に更新するのとで、どちらが現実に排出削減と安定供給に資するのか、という比較である。
小林氏の議論は、少なくともこの比較可能性を政策の俎上に載せた。その意味で、単なる“逆張り”ではなく、現実に立脚した問いを投げたと言える。
本来、エネルギー政策とは、信仰ではなく調整の技術である。環境負荷を下げることは重要だが、それは供給の安定、価格の許容性、産業競争力、地政学的リスクと切り離して論じられない。
ところが近年の日本では、CO2削減が半ば道徳命令のように扱われ、その副作用を口にするだけで「時代遅れ」扱いされる空気があった。だが、現実は空気では動かない。動くのは電力システムであり、設備であり、燃料調達であり、国民負担である。
だからこそ、いま必要なのは「脱炭素」という言葉の純度を競うことではない。必要なのは、まず低炭素で確実に前進することだ。ゼロを叫んで現実を壊すより、現実を保ちながら着実に減らす方が、はるかにましである。
小林氏の発言は、その当たり前のことを言ったにすぎない。それがあたかも異端のように聞こえるとすれば、異常なのは発言の側ではなく、日本の気候言説の方だろう。
そして、ここから先に必要なのは、単なる政策修正ではない。CO2を文明の敵とみなす単純な発想そのものを見直し、炭素と共存しながら社会を成り立たせるという、より成熟した視点への転換である。
「脱炭素」から「低炭素」へ。小林氏の発言は、その転換の始まりとして読むべきではないか。
最後に付言すれば、私は1年半前に投稿した記事でも、AZEC構想に関連して、化石燃料は単に排除するのではなく、よりクリーンに利用することが重要であり、かつて日本が世界に普及を目指したHELE(高効率低排出)技術を改めて訴求すべきだと書いた。
今回の小林氏の発言は、その議論が決して的外れではなかったことを示しているのではないか。
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