スコープ3は「やってる感」だけ:CO2爆増中のMicrosoftが証明してくれた

筆者はスコープ3の実態について繰り返しアゴラ上で指摘してきました。
無駄を極める「スコープ3」の算出・開示はやめるべきだ | アゴラ 言論プラットフォーム
スコープ3を算出する目的はサプライチェーンにおけるCO2削減のはずです。しかしながら、CO2排出量が推計値では削減施策を立てられません。推計方法も複数ありますが、代表的な手法は「活動量✕CO2排出係数」です。
(中略)
このかけ算の答えを減らすためには、小学生でもわかる通り活動量か係数のいずれかを減らすしかありません。活動量であれば、ビジネスを縮小する、車通勤している従業員に自転車通勤をするよう命じる、出張をなくす、といったことになります。企業が率先してできるはずがありません。
一方で係数は基本的に変わりません。データによっては15年や20年も使い続けることになります。これだけ脱炭素が叫ばれていてサプライヤーや電力会社が日々努力しているにもかかわらず、係数には全く影響しないのです。
スコープ3でCO2は減らせない | アゴラ 言論プラットフォーム
研究者や学者がスコープ3の手法を研究したり、またはマクロ分析としてたとえば業界団体など一定の企業群における傾向を把握するためにスコープ3を推計する分には構わないと筆者も考えています。業種や業態によって、サプライチェーンの上流、製造段階、製品の使用段階、リサイクル段階などCO2排出量が多い工程に目星をつける程度の利用であればよいのです。
しかしながら、推計のスコープ3をミクロな企業個社に適用して算出したり、さらに2030年の削減目標や2050年の実質ゼロ目標などを設定しても意味がありません。推計値は内部管理に全く使えないし、CO2排出量が分からないので具体的なCO2削減施策など打てないからです。なんら管理できない成り行きの推計結果を毎年開示するだけになります。
スコープ3の実態は「やってる感」だけなのです。これをなんと、脱炭素の優等生であるMicrosoft社が実証してくれたのでご紹介します。
AI利用、データセンター建設等によりビッグテックのCO2排出量が爆増中
Google、Amazon、MicrosoftなどビッグテックのCO2排出量が急増しています(Google:1,880万トン、Amazon:8,085万トン)。特にMicrosoftは、スコープ3の削減に向けてサプライヤーに対するネットゼロ対策を強化するそうです(太字は筆者)。
MicrosoftのCO2排出量が25%急増、AIの拡充が気候目標の達成を困難に
Microsoftは「2026年環境サステナビリティ報告書」を発表し、同社の温室効果ガス排出量が前年度比で25%増と大幅に上昇したことを明らかにした。この増加は、AIインフラの構築が加速していることに加え、同社のクリーンエネルギー戦略が、非追加型再生可能エネルギー証書の利用から、新たなカーボンフリーエネルギー源の開発へとシフトしたことに起因している。
(中略)
スコープ3排出量は依然として温室効果ガス排出量の大部分(85.8%)を占めており、この1年間で約12%増加した。これは主にデータセンターの拡張を反映したもので、増加の大部分は「資本財」によるものだ。
(中略)
同社は、スコープ3排出削減のために推進している取り組みを強調した。これには、サプライヤーに対するサステナビリティ要件の強化(Microsoft関連の出張において可能な限り持続可能な航空燃料:SAFを購入するよう要請する、サプライヤーがカーボンフリーエネルギーを利用しやすくするための体制整備、サプライヤーの温室効果ガス排出量算定支援、など)が含まれる。
SAFの利用について、Microsoftはサプライヤー倫理規定(Microsoft Supplier Code of Conduct)に記載しています。
2030 年までに、マイクロソフトの業務に関連する航空機利用においては、可能な限り持続可能な航空燃料(SAF)を利用することを目指します。
また、環境サステナビリティ報告書54ページには以下の記述も見えます。
ソフトウェアプロバイダーであるChooose社との提携により、マイクロソフトの規模を活かし、サプライヤーのコスト削減とSAFへのアクセス向上を支援しています。
Chooose社、Microsoft社連名によるプレスリリースもありました。
Enabling Microsoft suppliers to take climate action with sustainable aviation fuel | Chooose
持続可能な航空燃料で気候変動対策を推進できるマイクロソフトサプライヤーの支援
2025年9月10日
(中略)
Microsoftのサプライヤーは、Choooseポータルを通じて、航空関連の排出量を推定し、プラットフォーム上で直接SAFの環境属性を購入できるようになりました。これにより、SAFの利用と導入拡大が簡素化されます。
サプライヤーに対して、Microsoftへの出張にかかわる部分だけ抜き出してSAFを利用しなさいなんて筆者には狂気の沙汰としか思えませんが、どうやらMicrosoftは本気のようです。しかし、これも炭素除去クレジット撤退同様、いつ方針転換してもおかしくない脆弱な施策だと思います。
何より、上記のサプライヤーへの対策(SAF利用、カーボンフリーエネルギー利用、CO2排出量算定支援)がCO2削減につながるためには、スコープ3排出量が正確なデータであり、かつ対策と削減効果の因果関係がなければならないはずです。
Microsoftのスコープ3排出量および算定方法
そこで、Microsoftが公表したデータファクトシートを見てみます。

Microsoftのスコープ1・2・3排出量(2020年度~2025年度)
FY20→FY25を比較すると、それぞれ
- スコープ1:45%増(11.8万トン→17.1万トン)
- スコープ2(ロケーションベース):178%増(432.9万トン→1,203万トン)
- スコープ2(マーケットベース):494%増(45.6万トン→270.7万トン)
- スコープ3:46%増(1,249万トン→1,824万トン)
となっています。
スコープ2(ロケーションベース)は、同社における電力使用量の増減がそのままリンクしていると考えて差し支えありません。他方、スコープ2(マーケットベース)をみると、Microsoftが毎年膨大なカーボンオフセットを行ってきたことがよく分かります。マーケットベースの2025年度が急増(なんと前年比10倍!)したのは、同社が炭素除去クレジットをやめたことが要因です。
スコープ3はFY20→FY25で576万トン増えていますが、内訳としてはカテゴリー2(資本財)の561万トン増(163%増)が支配的です。データセンター建設がスコープ3排出量増加の要因だ、という説明とも合致します。
では、このスコープ3カテゴリー2(資本財)の計算方法をみてみます。
2025 Environmental Sustainability Report Accelerating progress to 2030
要約すると、
① AIを活用したLCAツール「Makersite」を使用。AIが様々なデータベースから原単位を拾ってきてLCAを自動計算。ハードウェア全機種のLCA結果を算出するのではなく、代表機種を選定し、算出結果を未評価機種へも展開。
② サプライヤーからCO2排出原単位を一次データとして収集。一次データの回答がないサプライヤーについては、英国環境・食糧・農村地域省(DEFRA)の2014年3月版排出原単位(物価・為替補正済み)を使用。一次データおよびDEFRAの原単位に各サプライヤーへの年間支出額をかけてCO2排出量を算出。
だそうです。
まず、①のLCAについて。AIを使えば原単位の精度が上がるわけではありません。さすがに英国DEFRAの2014年版ほど古くはないにせよ、世界中のどのデータベースから拾ってきたところで原単位が毎年更新されることはないのです(せいぜい、2020年、2023年など。次の更新は5年後なのか10年後なのか誰にも分からない)。
AIが探してくれたどの原単位を使用したとしても、カテゴリー2(資本財)の増減は原材料や素材の重量のみに依存するのであって、各サプライヤーのCO2削減努力はまったく反映されない仕組みになっています。
続いて②の推計について。そもそも、セメントや鋼材や半導体部品などを使ってデータセンターを建設する際に発生した物理的なCO2排出量は、神のみぞ知る実測不可能な値です。原単位が一次データであったとしても、年間支出額をかけているため材料費や輸送コストや人件費の増加、昨今言われているGPU不足や半導体価格高騰などの影響を受けてCO2排出量も急増する構造になっています。
理論上、一次データの比率が高まればCO2排出量の精度も上がりますが、Microsoftはカテゴリー2(資本財)の904万トンの内訳を公表していません。①と②の比率も、①の内訳である代表機種とそれ以外の機種の比率も、②の内訳であるサプライヤーの一次データとDEFRAの使用比率もすべて不明です。
スコープ3急増の要因とサプライヤーへの削減施策がずれまくり
カテゴリー2(資本財)のCO2を削減するための施策が、サプライヤーへのSAF利用、再エネ利用、排出量算定の支援となっています。これらは、サプライヤー各社の排出原単位を改善するための対策です。
つまり、Microsoftによるサプライヤーへのネットゼロ対策が効果を発揮するのは、カテゴリー2(904万トン)ではなく、カテゴリー1(513万トン)にわずかながら寄与する程度です。仮にサプライヤー各社の原単位が改善しカテゴリー1のCO2が削減されたとしても、データセンターへの投資額が急増すればサプライヤーのCO2削減努力など吹き飛んでしまいます。
筆者は年間支出額によってスコープ3の各カテゴリーを算出すること自体は否定しません。自社のサプライチェーン上でどのあたりにCO2排出量のホットスポットがあるのか目星をつける程度の利用方法であればよいのです。しかしながら、金額に依拠した推計値をもとに具体的な対策や削減計画を立案したところで、効果測定はできません。測定できないスコープ3は管理も削減もできないのです。
創業者のビル・ゲイツ氏も気候変動緩和策(=CO2削減)原理主義から気候変動適応策(=防災、減災、社会の転換など)を重視する現実路線へ舵を切りました。ぜひMicrosoft社も続いてほしいものです。
ビル・ゲイツが気候危機説の否定に君子豹変して界隈はてんやわんや | アゴラ 言論プラットフォーム
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