【言論アリーナ・記事1】研究会・もんじゅ、核燃料サイクルの行方

2016年11月09日 17:11

アゴラ研究所は10月20日、原子力産業や研究会の出身者からなる「原子力学界シニアネットワーク」と、「エネルギー問題に発言する会」の合同勉強会に参加した。

そしてアゴラ研究所所長の池田信夫さんが、小野章昌さん(エネルギーコンサルタント、元三井物産原子力燃料部長)、河田東海夫さん(元原子力発電環境整備機構(NUMO)理事)がパネルディスカッションを行った。

以下要旨を掲載する。

司会・日本における原子力開発は、商用炉としての軽水炉による発電と、その使用済み燃料の再処理から得られるプルトニウムの利用、すなわち核燃料サイクルを両輪として、紆余曲折はあったものの、当初より国策民営の旗の下で一貫して進められてきた。

核燃料サイクルの最終目標は高速増殖炉の商用化であり、無資源国日本が技術によって有資源国と成りえる最良の道であると考えられてきた。しかし東京電力の福島第一原子力発電所事故により、国民の間に原子力発電に対する忌避感情が増大し、また核燃料サイクルの要である高速増殖原型炉のもんじゅは廃炉の瀬戸際にある。

講師の池田氏は原子力利用については前向きに取り組むことに異論はないものの、核燃料サイクルについては経済学的視点から疑問を呈しており、各方面で持論を展開している。今回、座談会でそのご意見を伺うことにした。なお「ウラン資源問題」で小野章昌氏、「核燃料サイクル」で河田東海夫氏がそれぞれコメントする。

資料1:「核燃料サイクルに未来はあるか」(池田信夫氏、GEPR)

資料2 :「非在来型ウランと核燃料サイクル」(池田信夫氏、GEPR)

資料3:「ウランは十分あるか?」(小野章昌氏、GEPR)

資料4:「日本が保有するプルトニウムでは核武装はできない」(河田東海夫氏、GEPR)

【(講演概要)池田信夫氏「わが国の核燃料サイクルについて」】

私は経済学を中心にした知識を元に、この問題を分析している。ぜひ技術の分野から、その問題を指摘していただきたい。

1・原子力エネルギーの利用について

原子力エネルギーはエネルギー密度が石炭の300万倍であり、今後の最も有望なエネルギー源であることに間違いない。軽水炉以外では受動安全性があるプルトニウム使用の小型モジュール型高速炉(一体型高速炉IFR)が開発されており、経済性も高い。また使用済み核燃料にもことから世界的な慈善活動家のビル・ゲイツ氏も、原子力発電の研究に関心を持ち、みずから原子炉開発会社テラパワーの開発にかかわっている。

原子力は原理的には問題はないが、一般の理解が大切であり、コストについての考えがなければ、それを普及させることはできない。政治的にめんどうで、その実現に手間がかかる。技術者の皆さんの言うことは科学的・技術的に正しくても、それが政治的に実現できない。新潟県知事選ではかつて原発の活用を言っていた米山隆一氏が、反原発を掲げて当選した。このようなレベルの政治家が物事を決定してしまうのだ。

2・日本の原子力開発の歴史-核燃料サイクルの観点から

日本の原子力開発は正力松太郎や中曽根康弘らの政治主導で開始された。その目的として「平和利用」が掲げられたが、その陰では「将来の核武装」が隠されていた。平和利用の旗印の下に電力会社のコスト負担で国策民営路線が出来上がった。

原子力導入の1955年前後の米国の考えは日本をアジアにおける反共の砦とすることにあった。1965年までの日米安保条約の改正とともに、日本の将来の核武装は米国の暗黙の了解であった。しかしながら、その後の日本の急激な経済成長に伴い、日本は米国のライバルという敵視政策に変わっていった。核燃料サイクルに関してはカーター政権で米国は商用の再処理を中止し、日本にも中止を迫ったが、外交努力により継続することが容認されて現在まで続いている。

3・核燃料サイクル路線の変更について-もんじゅ廃炉を受けて-

もんじゅ廃炉の方向に進んでいる。「高速炉開発会議」が経産省主導で発足した。日本独自の高速増殖炉開発はやめて、フランスと共同開発するASTRIDの高速炉(FR)開発に方針転換するが、全量再処理路線は継続する方針だ。

まずASTRID計画だが、まだ何も決まっておらず、フランスでは2019年にやるかどうか決めるといっており、なおかつ費用は日本と折半してほしいという極めてあいまいな状況である。

一方、全量再処理であるが、高速増殖炉開発をやめたらプルトニウムの利用はプルサーマルに絞られ、現在ただでさえ多量のプルトニウムを抱えて、核不拡散上国際的に問題視されている上に、わざわざウラン燃料よりもコストの高いMOX燃料を作るために、どんどん再処理してさらにプルトニウムを作る意味はない。

ウラン資源には限りがあり、そのためにも再処理してプルトニウムを分離することが必要だとの話があるが、OECDの推定では在来型ウランのほかにリン鉱石に含まれる非在来型ウランを加えると、230年分以上もある。また海水ウランからの回収まで考えたらほぼ無尽蔵といえる。

使用済み燃料の最終処分についても、再処理し高レベル廃棄物で埋設するよりも、直接処分したほうが安上がりとのコスト試算もでている。また、埋設しないでそのまま管理して置いておくということであれば、六ケ所地区だけでも300年分の保管が可能とも聞いている。

核燃料サイクル問題は気候変動問題と同じく、未知のリスクが大きすぎて基本的に「テールリスク管理」ができない。経済学ではサンクコスト(今までに投入した費用)は無視して、今後に掛かる費用を計算して将来の方針付けをすることが必要とされているが、テールリスク管理ができない場合にはオプションをできるだけ広くとるのが鉄則である。最初の固定方針でどんどん進めてしまった場合、将来時点で取り返しがつかないことがあり得る。

プロジェクト管理で、こうした代替策を考えないで何兆円も投資するということは、民間でも行政でもあり得ない。日本のエネルギー政策のおかしさゆえだ。もんじゅも核燃料サイクルも、40年前の計画と異なって、実現しなかった。

今回の路線の変更は、全量再処理を見直す良い機会と考える。

【(2)に続く】

This page as PDF

関連記事

  • 米朝首脳会談の直前に、アメリカが「プルトニウム削減」を要求したという報道が出たことは偶然とは思えない。北朝鮮の非核化を進める上でも、日本の核武装を牽制する必要があったのだろう。しかし日本は核武装できるのだろうか。 もちろ
  • 日本経済新聞
    日本経済新聞3月27日記事。東芝の経営危機の主因である米原子力子会社、ウエスチングハウス(WH)が米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請する方針を決めたことが26日わかった。WHは適用申請後の支援先として韓国電力公社グループに協力を要請した。
  • 原子力規制委員会は、今年7月の施行を目指して、新しい原子力発電の安全基準づくりを進めている。そして現存する原子力施設の地下に活断層が存在するかどうかについて、熱心な議論を展開している。この活断層の上部にプラントをつくってはならないという方針が、新安全基準でも取り入れられる見込みだ。
  • 2015年7月15日放送。出演は村上朋子(日本エネルギー経済研究所研究主幹)、池田信夫(アゴラ研究所所長)、石井孝明(ジャーナリスト)の各氏。福島原発事故後、悲観的な意見一色の日本の原子力産業。しかし世界を見渡せば、途上
  • エネルギーは、国、都市、そして私たちの生活と社会の形を決めていく重要な要素です。さらに国の安全保障にも関わります。日本の皆さんは第二次世界大戦のきっかけが、アメリカと連合国による石油の禁輸がきっかけであったことを思い出すでしょう。
  • 電力・電機メーカーの技術者や研究機関、学者などのOBで構成する日本原子力シニアネットワーク連絡会は3日、「原子力は信頼を回復できるか?」をテーマとしたシンポジウムを都内で開いた。ここでJR東海の葛西敬之会長が基調講演を行い、電力会社の経営状態への懸念を示した上で、「原発再稼動が必要」との考えを述べた。
  • 1986年に世界を震撼させたチェルノブイリ原発事故。筆者は14年11月に作家の東浩紀氏が経営する出版社のゲンロンが主催したツアーを利用して事故現場を訪問し、関係者と話す機会を得た。福島原発事故を経験した日本にとって学ぶべき点がたくさんあった。そこで得た教訓を紹介したい。
  • 原発における多層構造の請負体制は日本独自のものであるが、原発導入が始まって以来続けられているには、それなりの理由がある。この体制は、電力会社、原子炉メーカー、工事会社、下請企業、作業者、さらには地元経済界にとって、それぞれ都合が良く、また居心地の良いものであったため、この体制は関係者に強く支持されてきた。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑