真の地球温暖化の速度を測る:米国と日本の挑戦

2021年05月25日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員

franconiaphoto/iStock

地球温暖化の正しい測定は難しい。通常の気象観測では捉えきれない僅かな変化を、理想的な環境で100年以上観測し続ける必要あるからだ

気象観測は世界各地で行われているが、このような分析に耐えるデータセットはまだ存在しない。したがって、われわれはまだ真の地球温暖化の速度がどのくらいなのかを知らない。

米国と日本では、この難題への挑戦が今も続いている。

2005年1月、アメリカ海洋大気庁NOAAは米国気候基準ネットワークUSCRN(United States Climate Reference Network)の運用を開始した。年々〜数十年単位の「気象現象」ではなく「気候変動」をターゲットとしたネットワークである。

米国での長期気象観測ネットワークで有名なものは、米国歴史気候学ネットワークUSHCN(United States Historical Climatology Network)である。しかし、このデータセットには周辺の都市化昇温、観測所の移転や気温計の変更などによる誤差が含まれており、これらの影響が補正しきれていない

そこでNOAAは、USHCNの米国内1218地点(図1a)のうち都市化の影響が小さい114地点を精選し気候観測の「基準地点」と定めて(図1b)、2005年から新たに高精度な測器を用いた観測を開始した。例えば、USHCNの観測地点には周囲の建物や樹木に風が遮られて熱がこもってしまう場所がある(図1a)。USCRNではこのような地点は観測対象から外され、地球温暖化の観測のための理想的な環境が維持されている(図1b)。日本の観測所ではまず見られない広大で平坦な敷地である。

図1 (a)USHCN・(b)USCRNによる米国内の観測地点の分布と観測風景の例(Pielke et al., 2007; Diamond et al., 2013

USCRNを使うと、USHCNに基づく地球温暖化速度の見積もりとどの程度違うのだろうか? 2021年5月現在、利用可能なUSCRNのデータは2005年以降の15年間しかなく、地球温暖化の速度を評価するには短すぎる(図2)。けれども参考までに15年間のデータを見ると、USHCN(補正前・補正後)に比べてUSCRNのデータは年々変動が大きい。回帰直線を引くとその傾きは0.06と上昇傾向を示すが、変動が大きく有意ではないので上昇しているとは結論できない(図2左上)。今後、両者の間にどのような違いが出てくるのか注目される。

図2 1900〜2020年のUSHCN1218地点(補正前・補正後)とUSCRN114地点の米国の年平均気温偏差。直線・点線:回帰直線。左上の図は2005〜2020年の拡大図。

さて、日本はどうか。USCRNと同じように選別してみると、気象庁の観測地点(気温計が設置されている約840地点)のうち、地球温暖化の監視に理想的な地点は寿都・宮古・室戸岬のわずか3地点しかない。こうなると、USHCNと同様にその他の観測データは何らかの補正をせざるを得ないが、それができる技術や経験を持つ人材も不足している。

米国のような広大な土地を有しないわが国で、この問題を解決できるのが、近藤純正東北大学名誉教授が提案する地球温暖化観測所である。地上での都市化などの影響を避けられるように、気象庁の観測地点で風速を測っている鉄塔(高さ10–50 m)に新たに高精度の気温計を設置するというものである。

地球の気温は、どのくらい上昇しているのか。精密な観測が必要だ。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員

関連記事

  • それから福島県伊達市の「霊山里山がっこう」というところで行われた地域シンポジウムに参加しました。これは、福島県で行われている甲状腺検査について考えるために開催されたものです。福島を訪問した英国人の医師、医学者のジェラルディン・アン・トーマス博士に、福島の問題を寄稿いただきました。福島の問題は、放射能よりも恐怖が健康への脅威になっていること。そして情報流通で科学者の分析が知られず、また行政とのコミュニケーションが適切に行われていないなどの問題があると指摘しています。
  • 先日のTBS「報道特集」で「有機農業の未来は?」との特集が放送され、YouTubeにも載っている。なかなか刺激的な内容だった。 有機農業とは、農薬や化学肥料を使わずに作物を栽培する農法で、病虫害に遭いやすく収穫量が少ない
  • これが日本の産業界における気候リーダーたちのご認識です。 太陽光、屋根上に拡大余地…温室ガス削減加速へ、企業グループからの提言 245社が参加する企業グループ、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は7月、GH
  • 4月15日、イーロン・マスク氏のインタビューのビデオが、『Die Welt』紙のオンライン版に上がった。 インタビュアーは、独メディア・コンツェルン「アクセル・スプリンガーSE」のCEO、マティアス・デップフナー氏。この
  • 政府「クリーンエネルギー戦略」中間整理が公表された。岸田首相の肝いりで検討されてきたものだ。 紆余曲折の末、木に竹をつなぐ もともと、この「クリーンエネルギー戦略」は、脱炭素の投資を進めるべく構想されたものだった。これは
  • アゴラ・GEPRは、NHNJapanの運営する言論サイトBLOGOS 、またニコニコ生放送を運営するドワンゴ社と協力してシンポジウム「エネルギー政策・新政権への提言」を11月26、27日の2日に行いました。
  • 日韓関係の悪化が、放射能の問題に波及してきた。 このところ立て続けに韓国政府が、日本の放射能について問題提起している。8月だけでも、次のようなものが挙げられる。 8月8日 韓国環境部が、ほぼ全量を日本から輸入する石炭灰の
  • EUの行政執行機関であるヨーロッパ委員会は7月14日、新たな包括的気候変動対策の案を発表した。これは、2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年と比べて55%削減し、2050年までに脱炭素(=実質ゼロ、ネットゼロ)

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑