IPCC報告の論点51:気候変動で食料生産が減っている?
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。

leolintang/iStock
今回のテーマは食料生産。以前、要約において1つだけ観測の統計があったことを書いた。
だが、本文をいくら読み進めても、ナマの観測の統計がとにかく示さていない。
唯一、漁獲量については下図があった。(図5.13)
これを見ると、漁獲量はどんどん増えている!
ところがこの説明をする本文では「気候変動によって海洋の食料生産が悪影響を受けている」となっている。例えば以下の箇所:
これを読むと海洋の養殖は気候変動で悪影響を受けている、と書いてある。しかし、上図を見ると、海洋の養殖の漁獲量(Aquaculture productionの Marine、図中の薄い茶色の部分)は「うなぎ上り」だ。
筆者は3000ページを超える本文を全部眺めたが、あらゆる農作物生産について、「気候変動が悪影響を及ぼしている」という記述が無数にある。
だが、下記のような生産量の統計の図は、ついに報告のどこにも見当たらなかった。
技術進歩のペースが上回り、世界の食糧生産は増加の一途である。気候変動による陰りなど見られない。

図は拙著「地球温暖化のファクトフルネス」より
まず観測・統計データを確認するという基本が、なぜ守られていないのだろうか。
■
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
【関連記事】
・IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
・IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
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・IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉖:CO2だけで気温が決まっていた筈が無い
・IPCC報告の論点㉗:温暖化は海洋の振動で起きているのか
・IPCC報告の論点㉘:やはりモデル予測は熱すぎた
・IPCC報告の論点㉙:縄文時代の北極海に氷はあったのか
・IPCC報告の論点㉚:脱炭素で本当にCO2は一定になるのか
・IPCC報告の論点㉛:太陽活動変化が地球の気温に影響した
・IPCC報告の論点㉜:都市熱を取除くと地球温暖化は半分になる
・IPCC報告の論点㉝:CO2に温室効果があるのは本当です
・IPCC報告の論点㉞:海氷は本当に減っているのか
・IPCC報告の論点㉟:欧州の旱魃は自然変動の範囲内
・IPCC報告の論点㊱:自然吸収が増えてCO2濃度は上がらない
・IPCC報告の論点㊲:これは酷い。海面の自然変動を隠蔽
・IPCC報告の論点㊳:ハリケーンと台風は逆・激甚化
・IPCC報告の論点㊴:大雨はむしろ減っているのではないか
・IPCC報告の論点㊵:温暖化した地球の風景も悪くない
・IPCC報告の論点㊶:CO2濃度は昔はもっと高かった
・IPCC報告の論点㊷:メタンによる温暖化はもう飽和状態
・IPCC報告の論点㊸:CO2ゼロは不要。半減で温暖化は止まる
・IPCC報告の論点㊹:アメダスで温暖化影響など分からない
・IPCC報告の論点㊺:温暖化予測の捏造方法の解説
・IPCC報告の論点㊻:日本の大雨は増えているか検定
・IPCC報告の論点㊼:縄文時代には氷河が後退していた
・IPCC報告の論点㊽:環境影響は観測の統計を示すべきだ
・IPCC報告の論点㊾:要約にあった唯一のナマの観測の統計がこれ
・IPCC報告の論点㊿:この「山火事激増」の図は酷い
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筆者は現役を退いた研究者で昭和19年生まれの現在68歳です。退職後に東工大発ベンチャー第55号となるベンチャー企業のNuSACを立ち上げました。原子力技術の調査を行い、現在は福島県での除染技術の提案をしています。老研究者の一人というところでしょうか。
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