石炭は台湾と日本の生命線だ:台湾封鎖シミュレーションが示したこと

SHansche/iStock
2025年7月、ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)は、台湾有事を想定したシミュレーションの第3弾を公表した。第1弾、第2弾が中国軍による台湾侵攻を扱っていたのに対し、今回のテーマは「台湾封鎖」である。侵攻よりも敷居が低いが、しかし経済・社会への影響は極めて深刻になり得る。
Lights Out? Wargaming a Chinese Blockade of Taiwan
台湾が封鎖された場合、台湾単独ではそれを解くことができない。港湾と海上輸送を押さえられれば、台湾は外部からの物資流入を失い、時間とともに確実に追い詰められていく。封鎖を打破し、台湾を支えるには、米軍の介入が不可欠となる。そしてそのとき、日本は必然的に米国と台湾を支える後方基地、物流の拠点となる。
封鎖下では民間船舶の多くは保険料の高騰や乗組員の確保といった問題から使用不能となる。そのため、台湾政府や米国が関与・管理する限られた隻数の船舶を用い、日本を起点として台湾へ物資を運ぶピストン輸送が行われることになる。かくして、日本も、台湾封鎖と無縁ではいられない。
CSISの報告書が強調する台湾の最大の脆弱性は、エネルギーにある。台湾は日本と同様、エネルギー資源のほぼ全量を輸入に依存している。シミュレーションでは、液化天然ガス(LNG)の備蓄は10日から12日間で枯渇し、石炭も40日から45日で尽きるとされる。石油には146日分の備蓄があるものの、封鎖が長期化すれば、それもいずれ底をつく。封鎖がエスカレートすれば、発電所、送電線、備蓄基地などの、エネルギーインフラへの攻撃もありうる。結果として、電力生産は急激に落ち込み、経済と社会の維持が困難になる。
報告書は、台湾が進めてきたグリーンなエネルギー政策、とりわけ石炭火力の縮小や原子力の停止が、台湾の脆弱性を高めている、と明確に指摘する。そして提言として、原子力発電の利用拡大に加えて、燃料備蓄が容易な石炭火力発電所の維持を挙げている。脱炭素を理由に石炭火力を減らして、燃料備蓄が難しいLNG火力の利用を拡大することについては、供給途絶リスクを高めることになるとして、警鐘を鳴らしている。
この台湾のエネルギーに関する示唆は、日本にもそのまま当てはまる。日本政府は現在、第7次エネルギー基本計画において、発電に占める石炭火力の比率を現状の約3割から大幅に引き下げる方針を掲げている。
しかし、もし台湾有事などに伴って日本のシーレーンも封鎖されるならば、日本もまたLNGの在庫は2週間程度しかない。台湾と同様、LNG依存を高めた電源構成は、危機に対して脆弱になる。石炭火力発電所を一定規模で維持することは、安全保障上、重要な課題である。
ところがいま脱炭素政策の影響をもろに受けて、日本の石炭輸入を支えるサプライチェーンは弱体化しつつある。この流れは反転させねばならない。
台湾、日本をはじめとして、中国以外の石炭輸入国であるインド、韓国、ベトナム、マレーシア、フィリピン等と連携して、石炭供給のサプライチェーンを国際的に強化してゆくことを、インド太平洋地域における安全保障政策として真剣に検討すべきである。
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