COP33誘致に動く中国、再エネの4分の1を捨てている矛盾

気候リーダーを演じる中国
2026年8月、Bloombergが報じたところによると、中国は2028年の国連気候変動会議(COP33)の開催国候補として、招致を検討しているという。
今年のCOP31はトルコ、来年のCOP32はエチオピアが開催国となっており、その次、アジア太平洋グループの持ち回りとなる2028年の座に、インドが今年4月に撤回した招致の空白を突いて、中国が名乗りを上げようとしている構図だ。
米国がパリ協定から二度目の離脱を果たし、気候問題における国際的なリーダーシップの空白が生まれている中、中国がその座を埋めることで「責任ある大国」としての国際的なブランディングを固めようとする意図は、想像に難くない。
しかし、その足元では、中国自身が生み出した再生可能エネルギー(再エネ)の4分の1近くを、活用できずに「捨てている」という現実がある。
目標の年表——ずれ続ける「気候リーダー」の演出と実態
まず、中国が掲げる主要な目標を年表に並べてみる。
| 年 | 目標・動き |
| 2028 | COP33開催地候補(気候リーダーとしての国際的演出) |
| 2030 | CO2排出量のピークアウト目標(=それまでは排出増を公式に容認) |
| 2035 | 「製造強国」ロードマップ第二段階—世界の製造強国と互角の競争力 |
| 2049 | 中国共産党建国100周年、製造超大国として世界に君臨する目標 |
| 2060 | カーボンニュートラル達成目標 |
COP33を主催しようとするその時点で、中国自身はまだCO2排出量の増加を公式に容認している。そして2049年の「製造強国」目標は、重工業・エネルギー多消費型の産業拡大を前提とするものであり、2060年のカーボンニュートラルという長期目標との整合性は、具体的な工程表としてはいまだ不透明なままだ。
設備は増えている——しかし発電できていない
中国の再エネ導入は、規模において世界を圧倒している。2025年、風力・太陽光の新規設備容量は430ギガワット(GW)超に達し、再エネの発電設備容量シェアは初めて60%を突破した。累計設備容量は1,800GWを超える。数字だけを見れば、脱炭素は順調に進んでいるように見える。
しかし、設備が「発電できる能力」と、実際に「発電され、使われる電力」との間には、大きな乖離が生まれている。
2026年第1四半期、風力の設備容量は前年比23%増加したにもかかわらず、実際の発電量はほぼ横ばいだった。太陽光も設備が33%増えた一方で、発電量の増加は18%にとどまっている。設備利用率そのものが低下しているのだ。
拡大する「棄風棄光」
その理由の一つが、送電網に受け入れられずに捨てられる電力——中国語で「棄風棄光」と呼ばれる現象の拡大である。
2026年上半期、中国は風力・太陽光の発電を合計360テラワット時、棄却したと報告されている。前年同期比で49%の増加であり、これは英国、あるいはメキシコ1年分の電力需要に相当する量だ。
中国国家能源局の公式統計では、太陽光8.6%、風力9.1%の棄却率とされている。しかし、独立系の調査機関であるCREA(Centre for Research on Energy and Clean Air)とGEM(Global Energy Monitor)が気象条件を補正して算出した実質的な棄却率は、26.1%——実に4分の1に達する。
地域別に見ると、この問題はさらに深刻だ。チベットでは風力の棄却率が30.2%、太陽光が33.9%に達した年もあり、青海省などの資源豊富な内陸省でも、10〜17%という高い棄却率が続いている。一方、上海や重慶といった消費地の大都市では棄却率はほぼゼロに近い。
これは、かつて視察等で指摘されてきた通り、再エネ資源が豊富な西部・北西部と、人口・製造業インフラが集中する東部との間の、送電インフラの構造的なミスマッチによるものだ。
グリッドだけが原因ではない
だが、近年の分析が示すのは、問題がグリッド不足だけではないという点である。CREAの分析によれば、棄却の主因は「送電網インフラの不足」よりも、「石炭火力発電所と送電網の運用そのものの硬直性」にある。石炭火力は中長期契約によって固定量の供給を約束されており、再エネのために出力を調整する経済的インセンティブが働かない構造になっているのだ。
事実、2026年上半期だけで中国は30GWの新規石炭火力を稼働させている。これは過去10年で最大の半期実績であり、退役した石炭火力はわずか2.7GWにとどまる。
再エネ設備を増やしながら、同時に石炭火力も増やし続ける——その結果として、作られた再エネ電力の行き場がなくなり、捨てられていく。これが、中国の電力システムで今起きている現実だ。
LCOEは下がっても、システムコストは上がる
この現象は、OECD/原子力機関(NEA)がかねて指摘してきた構造そのものでもある。風力・太陽光の発電コスト単体(LCOE:均等化発電原価)は、技術進歩によって年々下がってきた。しかし、NEAは2018年の報告書で、LCOEは発電コストのごく一部にすぎず、送電網レベルのシステムコストや社会的費用を含んでいないと明言している。
さらに研究者の間では、FCOE(Full Cost of Electricity、電力の完全費用)という概念が提唱されている。その核心的な主張は、「風力・太陽光は化石燃料より安くはならない。むしろ、エネルギーシステム内での普及率が高まるほど、コストは高くなる」というものだ。IEA自身も、変動性再エネのシステム価値は、その供給シェアが上がるほど低下すると認めている。
理由は単純である。再エネの普及初期には、比較的安価なバックアップ電源で変動を吸収できる。しかし普及が進むほど、バックアップに求められる調整力の負担は増大し、そのコストは加速度的に高くなっていく。

出典:OECDレポート(2018年)より資源エネルギー庁作成(数値は特定国ではなく複数論文の平均値)
中国で拡大する「棄風棄光」は、まさにこの理論の実証例だと言える。設備は増えているが、実際に使われる電力は増えていない。その差分——捨てられた電力に投じられた資本コスト——は、誰かが負担しなければならない隠れたシステムコストとして、電力システムのどこかに積み上がっている。
気候モデルと電力システム——共通する検証の失敗
この構造は、気候モデル自体の検証問題とも重なる。CMIP5に代表される気候モデルの多くが、実測された観測データと長期的に乖離し続けているにもかかわらず、政策側はそのモデルの予測を前提に脱炭素目標を組み立て続けている。
同様に、LCOEという単純化されたモデルが、実際の系統運用データ——棄電率の上昇、設備利用率の低下——と乖離し続けているにもかかわらず、政策の議論は依然としてLCOEベースの「再エネは安い」という前提のまま進んでいる。
モデルが実測データと合わなくなったとき、モデルを検証し、修正するのが工学的に誠実な態度である。しかし気候政策の世界では、モデルと実態の乖離が起きても、モデルの前提そのものが疑われることは少ない。
気候リーダーの演出と、電力システムの実態
中国がCOP33の開催国として名乗りを上げようとする背景には、気候リーダーとしての国際的な評判を固めたいという意図があるのだろう。しかし、その国内の電力システムでは、増設された再エネ設備の4分の1が、送電網に受け入れられず、また石炭火力優先の契約構造によって、活用されずに捨てられている。
これは中国だけの問題ではない。再エネの普及を、設備容量という「見た目の数字」だけで測るのか、それとも実際に使われた電力と、その裏にある隠れたシステムコストまで含めて測るのか——脱炭素政策全体が向き合うべき、共通の問いがここにある。
関連記事
-
ドナルド・トランプ氏が主流メディアの事前予想を大きく覆し、激戦区の7州を制覇、312対226で圧勝した。この勝利によって、トランプ氏は、「グリーン・ニュー・スカム(詐欺)」と名付けたバイデン大統領の気候政策を見直し、税制
-
以前にも書いたが、米国共和党は、バイデンのグリーン・ディールが米国の石油・ガス産業を弱体化させ、今日の光熱費高騰、インフレ、そしてロシア依存を招いたことを激しく批判している。 今般、ノースダコタ州のダグ・バーガム知事をは
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 以前、「IPCC報告の論点⑥」で、IPCCは「温暖化で大
-
鹿児島県知事選で当選し、今年7月28日に就任する三反園訓(みたぞの・さとし)氏が、稼動中の九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)について、メディア各社に8月下旬に停止を要請する方針を明らかにした。そして安全性、さらに周辺住民の避難計画について、有識者らによる委員会を設置して検討するとした。この行動が実現可能なのか、妥当なのか事実を整理してみる。
-
グローバル・エネルギー・モニターという団体が石炭火力発電動向に関する報告書を発表した。 分かり易い図がいくつかあるので紹介しよう。 まず2023年の1年間で、追加された石炭火力設備容量と(赤)、退役した石炭火力設備容量(
-
日本の電力系統の特徴にまず挙げられるのは、欧州の国際連系が「メッシュ状」であるのに対し、北海道から 九州の電力系統があたかも団子をくし刺ししたように見える「くし形」に連系していることである。
-
ポーランドの首都ワルシャワから、雪が降ったばかりの福島に到着したのは、2月2日の夜遅くでした。1年のうち、1月末から2月が、福島においては最も寒い季節だと聞きました。福島よりもさらに寒いワルシャワからやって来た私には、寒さはあまり気にならず、むしろ、福島でお目にかかった皆さんのおもてなしや、誠実な振る舞いに、心が温められるような滞在となりました。いくつかの交流のうち特に印象深かったのが、地元住民との食の安全に関する対話です。それは福島に到着した翌朝、川内村で始まりました。
-
日本が議長を務めたG7サミットでの重点事項の一つは気候変動問題であった。 サミット首脳声明では、 「遅くとも2025年までに世界の温室効果ガス排出量(GHG)をできるだけ早くピークにし、遅くとも2050年までにネット・ゼ
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
















