山火事は温暖化のせいではない

2020年12月13日 17:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

山火事が地球温暖化のせいではないことは、筆者は以前にも「地球温暖化ファクトシート」に書いたが、今回は、分かり易いデータを入手したので、手短かに紹介しよう。(詳しくは英語の原典を参照されたい)

まずカリフォルニアの山火事が話題になっている米国から。

下図は、山火事で焼失した米国の森林面積である。2017年は山火事が騒がれたが、それでも歴史的に見ると小さい。1930年代の方が5倍も焼失面積は大きかった。

オーストラリアでも、最近の山火事で20万平方キロが消失したことが話題になった。これは日本の面積37万平方キロの半分に相当するから、確かに広大な面積だ。しかし歴史的には1974年から1975年にかけての山火事の方が巨大で、なんと117万平方キロが消失した。これは日本の面積の3倍にもなる。

世界全体で見ても、山火事による焼失面積は減少傾向にあることが、下図から分かる。

以上は20世紀のデータであったが、長期的な傾向を見るために、1600年まで遡ってみる。下図は、北米西部の800以上の地点での山火事の記録件数である。

この図から分かることは、まず、人間が入植する以前(図の左側の白い部分、概ね1875年まで)は、山火事は頻繁に起きていた、ということだ。北米西部は(オーストラリアも)、山火事はもともと自然の一部なのだ。

そして、人間が入植した後(図の右側、概ね1875年以降)は、山火事が減少した。

減少の理由は、第1に、家畜を飼うようになったので、草や木が食われて、山火事の燃料が無くなったためである。そして第2に、消防活動によって山火事を抑え込むようになったためである。

では冒頭の図のように、2000年ごろから米国の山火事面積がまた増えてきた理由は何だろうか?

最大の要因は、長い間にわたり人間が山火事を抑制し続けた結果として、山に燃料が溜まってしまったことである。

山に燃料が溜まりすぎると山火事の元になるので、伐り出したり、計画的に火入れをして燃やしてやらないといけないのだが、米国もオーストラリアもそれをしてこなかった。

火入れと山火事の関係を示すデータが下図である。

この図は西オーストラリアにおいて、山火事による焼失面積と、計画的な火入れの面積を比較したものである。計画的な火入れが盛んだった1970年頃は山火事が抑えられていたが、火入れが減った後の1990年以降には山火事が増加していることが分かる。

近年になって山火事が増加しているもう1つの理由は、人間の居住域が広がり、そこで電気や燃料の利用をしくじって火元となることだ。

山火事は地球温暖化のせいにされることがあるが、少なくとも主要な要因では無いし、因果関係があるか否かもはっきりしていない。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 時代遅れの政治経済学帝国主義 ラワースのいう「管理された資源」の「分配設計」でも「環境再生計画」でも、歴史的に見ると、学問とは無縁なままに政治的、経済的、思想的、世論的な勢力の強弱に応じてその詳細が決定されてきた。 (前
  • 日本の温室効果ガス排出量が増加している。環境省が4月14日に発表した確報値では、2013 年度の我が国の温室効果ガスの総排出量は、14 億 800 万トン(CO2換算)となり、前年度比+1.2%、2005年度比+0.8%、1990年度比では+10.8%となる。1990年度以降で最多だった2007年度(14億1200万トン)に次ぐ、過去2番目の排出量とあって報道機関の多くがこのニュースを報じた。しかし問題の本質に正面から向き合う記事は殆ど見られない。
  • 東京都が「カーボンハーフ」を掲げている(次々とカタカナのキャッチフレーズばかり増えるのは困ったものだ)。「2030年までCO2を半減する」という計画だ。ではこれで、いったいどのぐらい気温が下がり、大雨の雨量が減るのか、計
  • 経済産業省は東電の原子力部門を分離して事実上の国営にする方向のようだが、これは順序が違う。柏崎刈羽原発を普通に動かせば、福島事故の賠償や廃炉のコストは十分まかなえるので、まず経産省が今までの「逃げ」の姿勢を改め、バックフ
  • 「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許
  • トランプ次期米国大統領の外交辞書に儀礼(プロトコール)とかタブーという文字はない。 大統領就任前であろうが、自分が会う必要、会う価値があればいつなんどき誰でも呼びつけて〝外交ディール〟に打って出る。 石破のトランプ詣でお
  • 広島、長崎の被爆者の医療調査は、各国の医療、放射能対策の政策に利用されている。これは50年にわたり約28万人の調査を行った。ここまで大規模な放射線についての医療調査は類例がない。オックスフォード大学名誉教授のW・アリソン氏の著書「放射能と理性」[1]、また放射線影響研究所(広島市)の論文[2]を参考に、原爆の生存者の間では低線量の被曝による健康被害がほぼ観察されていないという事実を紹介する。
  • 原子力発電は「トイレの無いマンション」と言われている。核分裂で発生する放射性廃棄物の処分場所が決まっていないためだ。時間が経てば発生する放射線量が減衰するが、土壌と同じ放射線量まで減衰するには10万年という年月がかかる。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑