トランプ関税は中国製PVを廃し米国エネルギー輸入で切り抜けよ

ホワイトハウスSNSより
トランプ政権は日本の貿易黒字を減らすように要求している。「自動車の安全規制が非関税障壁になっている」と米国が主張するといった話が聞こえてくる。
だが、どうせなら、日本の国益に沿った形で減らすことを考えたほうがよい。
日本の貿易黒字は年間9兆円である※1)。これを減らすのに、どのような方法があるか。
防衛費は現在年間8.7兆円で※2)、これをGDPの2%に増やすと12.2兆円になる。コルビー国防次官が主張してきたように3%まで引き上げるならば18.3兆円である。このうちいくらかは米国からの装備購入となるだろう。これは日本としても国益に沿った必要な支出と言えるかもしれない。
だがそれ以上に、エネルギーにこそ注目すべきだ。
日本政府は、脱炭素のためのグリーントランスフォーメーション(GX)実行計画を掲げている。ここでは10年で150兆円の投資を政策によって促すとしているから、これは毎年15兆円にもなる。
このGX実行計画の主な内容は、再エネやEVの推進だ。だが、いま中国の太陽光パネルの世界シェアは9割を超え、洋上風力発電の主要設備のシェアも6割から8割に達する。EVも中国が世界シェアを圧倒している。
つまりGX実行計画は、事実上、中国にお金を垂れ流す計画となっている。
トランプ関税の大きな狙いは、中国の不公正な貿易・投資慣行を是正することだとされる。ならば、このGX実行計画を止めることは、トランプ政権が望むところにも合致する。というより、このような計画を実施していること自体、トランプ政権にとっては看過しがたいことであろう。
さて日本政府はGX計画は経済成長をもたらすと強弁しているが、実際には、GX計画は高いエネルギーコストをもたらすので、日本経済には悪影響を及ぼす。
経産省系シンクタンクであるRITEの試算(p6)では2030年断面でのGDP損失は毎年30兆円と見込まれている。このようなGX実行計画を止めることはまさに日本の国益である。この一環としていま国会で審議中の、CO2総量規制を実現する排出量取引制度法案も廃案にすべきである。
その一方で、日本は米国からの化石燃料輸入を増やすとよい。
いま、日本の化石燃料輸入代金は年間27.4兆円に上る※3)。だがこのうち米国からの輸入は年間1.4兆円にすぎない※4)。
米国は歴史的にはあまり化石燃料を輸出してこなかった。だが近年、シェール技術の長足の進歩によって石油・ガス生産が急激に伸びてきた。トランプ政権は石炭生産の復活も掲げている。米国は世界一の石油・ガス生産国であり、石炭埋蔵量も世界一である。
この米国からの化石燃料輸入を増やすことで、日本は貿易黒字を大幅に減らす可能性がある。もちろん価格などの条件は逐一真剣に交渉しなければならない。よく取りざたされているアラスカのLNG開発が本当によい選択肢なのかどうかも個別の検討が必要だ。
そして経済性だけでなく、米国からのエネルギー輸入は、日本のエネルギー安全保障にとって望ましいという側面が重要だ。
資源の乏しい日本は、ほぼ化石燃料を全量、海外から輸入している。唯一の同盟国であり、強大な軍事力を持つ米国から一定のエネルギー輸入をしておくことは、台湾有事など、いざというときのエネルギー安全保障におおいに寄与する。米国は自国の国益も関わっているとなれば海軍を護衛に付けてでも日本にエネルギーを届けるだろう。
日本の化石燃料輸入代金27.4兆円のうち、例えば5分の1を米国からの輸入にあてれば、それだけで年間5.5兆円になる。現在の1.4兆円から4.1兆円の増である。これだけで日本の貿易黒字9兆円をほぼ半減する。
だがこれには、現行の日本政府のエネルギー基本計画が邪魔になる。同計画では、現在は全発電量の1割に過ぎない太陽光発電と風力発電の合計を、2040年には3割から4割に増やすとしている。もしこれを本当に実施すれば、その分、LNGなどの消費が減ることになり、米国産の化石燃料輸入の余地も少なくなる。
日本は中国にお金を垂れ流すGXを止め、米国からの化石燃料輸入に舵をきるべきである。これによって、対米黒字削減を、国益に適う形で実現することができる。
■
※1)財務省が 2025年4月17日に公表した 2024年度(2024年4月〜2025年3月)の通関ベース貿易統計速報で示された日本の対米貿易黒字額は9兆53億円であった。(参考:年度平均為替レートを1 ドル=約145円とすると、およそ620億ドル前後に相当)
※2)2024年12月27日に閣議決定された 2025年度(令和7年度)予算案。前年比 +9.4%(+7508億円)。
※3)通関統計HS27「鉱物性燃料等」=1,953億USD × 年平均レート140.5 円/USD ≒ 27.4兆円)。この内訳は以下のとおり

140.5 円/USD で換算
(ドル建て輸入額:JETRO『世界貿易投資報告2024』)
※4)直近の暦年 2024年(財務省2025-03-13公表「主要地域〔国〕別主要品別表 ― 輸入1-12月:確々報」)における米国由来HS27「鉱物性燃料等」輸入額は1.35兆円だった。その内訳をMOF「品目別国別表」+JOGMEC 価格統計から概算すると以下の様になる。
■

関連記事
-
「石器時代は石が無くなったから終わったのではない」 これは1973年の石油ショックの立役者、サウジアラビアのヤマニ石油大臣の言葉だ。 当時、イスラエルとアラブ諸国の間で第四次中東戦争が起きて、サウジアラビアは「石油戦略」
-
日本の核武装 ロシアのウクライナ侵攻で、一時日本の核共有の可能性や、非核三原則を二原則と変更すべきだとの論議が盛り上がった。 ロシアのプーチン大統領はかつて、北朝鮮の核実験が世界のメディアを賑わしている最中にこう言い放っ
-
気象庁は毎年気候変動監視レポート(以下、レポート)を出している。これまでは冊子がメインだったが今年からウェブ版のみとなった。 https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/monitor/inde
-
私は原子力発電の運用と安全の研究に、およそ半世紀関わってきた一工学者です。2011年3月の東京電力福島第一原発事故には、大変な衝撃を受け、悲しみを抱きました。自分は何ができなかったのか、自問と自省を続けています。
-
1997年に開催された国連気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)で採択された京都議定書は、我が国の誇る古都の名前を冠していることもあり、強い思い入れを持っている方もいるだろう。先進国に拘束力ある排出削減義務を負わせた仕組みは、温暖化対策の第一歩としては非常に大きな意義があったと言える。しかし、採択から15年が経って世界経済の牽引役は先進国から新興国に代わり、国際政治の構造も様変わりした。今後世界全体での温室効果ガス排出削減はどのような枠組を志向していくべきなのか。京都議定書第1約束期間を振り返りつつ、今後の展望を考える。
-
田中 雄三 国際エネルギー機関(IEA)が公表した、世界のCO2排出量を実質ゼロとするIEAロードマップ(以下IEA-NZEと略)は高い関心を集めています。しかし、必要なのは世界のロードマップではなく、日本のロードマップ
-
「再エネ発電の一部で規律に課題、停電に至ったケースも」と電気新聞が報じている: 送配電網協議会は6日、経済産業省などが開いた再生可能エネルギーの事業規律を強化するための有識者会合で、一部再エネ発電事業者の運用や工事面の問
-
本年5月末に欧州委員会が発表した欧州エネルギー安全保障戦略案の主要なポイントは以下のとおりである。■インフラ(特にネットワーク)の整備を含む域内エネルギー市場の整備 ■ガス供給源とルートの多角化 ■緊急時対応メカニズムの強化 ■自国エネルギー生産の増加 ■対外エネルギー政策のワンボイス化 ■技術開発の促進 ■省エネの促進 この中で注目される点をピックアップしたい。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間