洋上風力発電による海洋汚染の可能性
痛ましい事故が発生しました。
風力発電のブレード落下で死亡事故:原発報道とのあまりの違いに疑問の声
2日午前10時15分ごろ、秋田市の新屋海浜公園近くで、風力発電のプロペラ(ブレード)が落下し、男性が頭を負傷して倒れているのが発見されました。男性は意識不明のまま救急搬送されましたが、死亡が確認されました。

ブレード落下の現地調査の様子
NHKより
別の記事では、風力発電に関連する事故が5年で200件発生していたとの報道も。
風力発電事故5年で200件、羽根破損は30件…亡くなった男性「タラの芽採りに」自転車で外出
これまでも、バードストライクや騒音・低周波音被害などがたびたび報じられていました。冒頭のアゴラ記事でも指摘されている通り、これでは人間にも環境にも全くよいことがありません。
加えて、ほとんど報道されませんが、特に洋上風力発電では事業を終えた後の廃棄・撤去時における海洋への「残置」の問題があります。
「着床式洋上風力発電施設の廃棄許可に係る考え方」令和3年9月 環境省 水・大気環境局 水環境課 海洋環境室
海洋汚染等防止法においては、完全撤去を原則としているが、撤去することのマイナス要因が、一部残置することのマイナス要因を上回る場合に、一部残置を容認する可能性が考えられる。
この上で、廃棄する着床式洋上風力発電設備の基礎を一部残置せざるを得ない場合、撤去に伴う底生生物を含む海洋環境への影響、安全面における影響、他の海域利用者への影響等を考慮すると、残置する部分は、支持構造物の下部となることが想定される。
「残置」とは、既存の場所から撤去せずに廃棄することをいう。また、「捨てる」とは、既存の場所から撤去して、海洋の別の場所に廃棄することをいう。
(中略)
また、「撤去」とは既存の場所から取り去ることをいう。

詳細はリンク先の資料をご覧ください。様々な残置のケースを想定して検討が進んでいますが、ひとことで言うと風力発電施設の一部を海洋へ残置した場合は監視が義務付けられるようです。しかし、いくら監視をしても海洋汚染や生態系への影響を低減させることはできません(10年経てば漁礁になってプラスの影響もある、なんてことを言う人が出てきそうでおそろしい…)。
さらに、廃棄時ではなく事業の継続中における新たな海洋汚染に関する疑念が1か月ほど前にドイツで報じられていました。以下、抜粋します。
洋上風力タービンから排出される数千トンの塗料粒子が海洋環境を汚染している (blackout-news.de)
ブラウンシュヴァイク工科大学による最近の研究では、風力タービンの基礎の腐食防止コーティングから塗料粒子が排出され、最終的に海に流れ込むことが示されている。これらの粒子は、多くの場合、亜鉛やガラスフレークなどの添加剤で構成されている。
洋上風力タービンの基礎は、過酷な条件に耐えなければならないため特殊なコーティングが施されている。これには貯蔵寿命を延ばす添加剤が含まれているが、時間の経過とともに塗料粒子が流れ出る原因にもなる。
2024年までに建設されたすべての洋上風力発電所は、166トンから832トンの塗料粒子を海に排出した可能性がある。この拡大が続けば、2035年までに排出量が3,052トンになる可能性がある。
これらの量が生態系にダメージを与えるかどうかは未解決のまま。さらなる研究が必要である。
もちろん、風力発電事業に関わる方々は、海洋への悪影響が最小化されるよう残置の手段や塗料の開発等に取り組んでおられるのだと思います。海底ケーブルやパイプラインはもとより、船舶による油や排ガス、バラスト水など海には人間活動に起因する様々な汚染物質や環境影響があり、風力発電もその一部であることに変わりありません。
しかし、発電中や事業終了後に海洋汚染が発生するのであれば、風力発電を「環境にやさしい」や「クリーンエネルギー」などと呼ぶことはできないはずです。風力発電は人間活動や経済活動へ貢献するために電力を供給する発電方法のひとつであり環境負荷は当然存在するのだと言えばよいのであって、「クリーンエネルギー」「SDGs」などと称した瞬間にグリーンウォッシュ、SDGsウォッシュとなってしまうのではないでしょうか。
落下事故やバードストライク、低周波被害や景観などに加えて、今後は風力発電による海洋汚染についても問題になる可能性がありそうです。解決策はクリーンエネルギーやSDGsなどと言わなければよいだけ、ただそれだけです。
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