暑さによる死亡は減りつづけている

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毎年夏になると、「熱中症が増えている」とするニュースがあふれる。「地球温暖化の影響だ」とする意見も散見される。
もちろん熱中症は現実のリスクである。消防庁によれば、2024年5〜9月の全国の熱中症救急搬送人員は97,578人で、2008年の調査開始以降で最多だった。厚生労働省の人口動態統計でも、2024年の熱中症による死亡数は2,160人であった。そのうち65歳以上が1,835人を占めている※1)※2)。
しかし、ここで混同してはいけないことがある。「熱中症として登録された死亡数」や「救急搬送された人数」というのは、「暑い日に死亡率がどれだけ上がるか」とは同じではない。前者は、そのときの制度や習慣によっても大きく変動する。最近は単に熱中症として登録されることや救急搬送の利用が多くなっただけかもしれない。これに対して、後者こそは、暑さによる超過死亡、あるいは暑い日の相対死亡リスクを見る指標である。
実際のところ、藤部文昭・松本淳の2021年研究は、日本の暑い夏の総死亡数の経年変動は、いわゆる熱中症死亡の変動よりもはるかに大きく、熱中症死亡だけでは暑さによる健康への影響の全体を捉えられないことを示している※3)。
では暑さによる死亡数はどのように変遷してきたのだろうか。明瞭に示しているのが、ロジャー・ピールキー・ジュニアが紹介している米国のデータである。ピールキーは、猛暑日における死亡リスクが長期的に大きく低下してきたことを示している(図1)※4)※5)。

図1 米国の地域別および全国の「猛暑日」における総死亡の相対リスク。右下が全国値。
出典:Sheridan et al. 2021; Pielke Jr. 2023 が紹介。
図1の縦軸は、猛暑日とそうでない日の総死亡リスクの比率である。1.0なら、猛暑日でも死亡率は通常日と変わらないことになる。1.3であれば、猛暑日の死亡率が通常日よりも3割高いことになる。米国全体では、1970年代後半には猛暑日の死亡率は明確に高かったが、2010年代にはそれがほぼ消滅して通常日とほとんど変わらなくなっている。
なおこのSheridan et al. 2021 は、1975〜2018年の米国107大都市圏を対象に、猛暑日後の10日間ラグを含めて死亡反応を分析した研究である※6)。
なぜ死亡リスクは下がったのか。重要な要因としてエアコンが指摘されている。Barreca et al. 2016 は、20世紀の米国における気温と死亡率の関係を分析し、日平均気温が80°F(=約27℃)を超える日の死亡影響が75%低下し、その低下のほとんどが1960年以降に起きたと報告した上で、住宅用エアコンの普及が、高温日の死亡リスク低下のほぼ全体を説明するとした※7)。
死亡率については、日本でも同じ方向の結果が出ている。気象庁によれば、日本の夏の平均気温は長期的に100年あたり1.38℃の割合で上昇してきた(なお2025年夏は1898年の統計開始以降で最も高かった)。つまり、日本の夏は暑くなっている※8)。
だが、藤部・松本の2023年研究は、1951〜2020年の日本の月次データを分析し、気温1℃あたりの年齢調整済み死亡率の変動幅が、時代とともに5分の1から10分の1にまで低下したと報告している。つまり総死亡率で観測された「暑さへの感受性」は大いに弱まってきたのである。なおこれに対して、いわゆる熱中症による死亡率は1950年代から1980年代にかけては減少したが、その後増加するV字型の動きを示すという、死亡率とは異なった一貫性の無い動きをしてきた※9)。
なお、暑さによる死亡率が減少した理由はエアコンだけではない。Sera et al. 2020 は、カナダ、日本、スペイン、米国の311地点を対象に、エアコン普及と暑さによる死亡の関係を分析した。
日本では、暑さによる超過死亡割合が研究期間中に3.57%から1.10%へと低下している。エアコン普及は暑熱死亡リスク低下と関連していたが、それだけで説明できるのは日本では約20%だったという。つまりエアコンは重要だが、それ以外として、医療の改善、住環境の改善、生活行動の変化、警報の普及、地域での見守りなど、広い意味での社会的な適応がなされていることが示唆される※10)。
暑さによる死亡率の低下は多くの国で見られる。Vicedo-Cabrera et al. 2018 は、1985〜2012年の10か国305地点を分析し、暑さによる死亡割合は、オーストラリア、アイルランド、英国を除くすべての国で低下したと報告している。日本は、他の多くの国と同様、暑さによる死亡割合が低下した国に含まれるだけでなく、寒さによる死亡割合も低下している※11)。
ニュースでよく見る「熱中症が増えている」という話と、「暑さによる相対死亡リスクが上がっている」という話は別である。前者は死因に関する統計や救急車による搬送数の統計であるが、これは、人口が高齢化していること、熱中症と診断・報告するか否かという社会の習慣、救急車をどの程度利用するかという習慣などにも大きく左右される。
これに対して、後者の相対死亡リスクは、暑い日に人々がどれだけ余分に亡くなるという、より本質的な公衆衛生の指標である。
そして、その相対死亡リスクについては、日本では、他のほとんどの国と同様に、大幅に減少してきた。暑さで亡くなる人は減り続けているのである。
理由は、エアコンが普及し、住宅が改善し、医療が進歩し、警報や情報提供が充実し、人々の行動が変わったからだ。内閣府の消費動向調査によれば、2025年3月末時点で、日本のルームエアコン保有数は100世帯あたり284.3台、つまり平均すれば1世帯に約2.8台である。これが人々の命を守っている※12)。
暑さによる死亡を減らすうえで重要なのは、恐怖をあおることではない。エアコンを使えること、安定して安価な電力があること、住宅の断熱を良くすること、高齢者が孤立しないことなどである。
そしてこれは、気候変動への適応というよりは、まず何よりも、夏は暑いという日本の気候そのものへの適応であった(例えば1970年代にエアコンを購入した人々は、勿論、地球温暖化なんて知りもしなかった)。そして気候への適応さえきちんとしておけば、仮に気候変動が起きるとしても、それへの対策となる。
今後の気温がどうなるにせよ、夏の暑さへの対策はきちんと進め続けておくべきだ。
【参考文献・出典】
※1)消防庁「令和6年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況」2024年10月29日。 https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r6/heatstroke_nenpou_r6.pdf
※2)厚生労働省「年齢(5歳階級)別にみた熱中症による死亡数の年次推移(平成19年~令和6年)」。
※3)Fujibe, F. and Matsumoto, J. (2021). “Estimation of Excess Deaths during Hot Summers in Japan.” SOLA, 17, 220–223. DOI: 10.2151/sola.2021-038.
※4)Roger Pielke Jr. (2023). “Public Health and Climate Change.” The Honest Broker, April 24, 2023.
※5)Roger Pielke Jr. “Europe’s Deadly Aversion to Air Conditioning.” The Honest Broker.
※6)Sheridan, S. C., Dixon, P. G., Kalkstein, A. J., & Allen, M. J. (2021). “Recent Trends in Heat-Related Mortality in the United States: An Update Through 2018.” Weather, Climate, and Society, 13(1), 95–106. DOI: 10.1175/WCAS-D-20-0083.1.
※7)Barreca, A., Clay, K., Deschênes, O., Greenstone, M., & Shapiro, J. S. (2016). “Adapting to Climate Change: The Remarkable Decline in the U.S. Temperature-Mortality Relationship over the Twentieth Century.” Journal of Political Economy, 124(1), 105–159. DOI: 10.1086/684582.
※8)気象庁「日本の季節平均気温」。
※9)Fujibe, F. and Matsumoto, J. (2023). “Long-Term Change in Heat-Related Excess Mortality in Japan.” Geographical Review of Japan Series B, 96(2), 41–49. DOI: 10.4157/geogrevjapanb.96.41.
※10)Sera, F., Hashizume, M., Honda, Y., et al. (2020). “Air Conditioning and Heat-related Mortality: A Multi-country Longitudinal Study.” Epidemiology, 31(6), 779–787. DOI: 10.1097/EDE.0000000000001241.
※11)Vicedo-Cabrera, A. M., Sera, F., Guo, Y., et al. (2018). “A Multi-country Analysis on Potential Adaptive Mechanisms to Cold and Heat in a Changing Climate.” Environment International, 111, 239–246. DOI: 10.1016/j.envint.2017.11.006.
※12)内閣府経済社会総合研究所「消費動向調査(令和7(2025)年3月実施分)結果の概要」。
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