ESG投資をめぐる米国の州と金融機関の争い

AleksandrVS/iStock
米国21州にて、金融機関を標的とする反ESG運動が始まっていることは、以下の記事で説明しました。
ESG投資をめぐる米国の州と金融機関の争いは沈静化することなく続いているようです。本記事は、The Epoch Timesの記事に他の情報を追加して整理したものです。
米国19州の司法長官がNZBA参加企業に対して調査に乗り出した
国連が主導する「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(以下NZBA)」には、41カ国の119の銀行が加盟しており(10月27日現在)、それらの銀行の総資産は米70兆ドル(約10,500兆円)で、世界の銀行資産額の39%を占める。NZBAに加盟している銀行は、2050年までに融資や投資のポートフォリオから排出される温室効果ガス排出量を実質ゼロ(ネットゼロ)とすることを約束している。
そのNZBA参加企業に対して、米国19州の司法長官が調査に乗り出している。
調査の理由として、「NZBAは化石燃料に携わる米国企業の市場における信用を失墜させようとしている。一方でNZBAは、化石燃料の拡大には資金調達しないと表明しながらも、化石燃料をベースとした既存の産業や社会構造からの即時離脱には反対している」ことが挙げられている。
アリゾナ州、ケンタッキー州、ミズーリ州、テキサス州が民事調査請求を主導し、アーカンソー、インディアナ、カンザス、ルイジアナ、ミシシッピ、モンタナ、ネブラスカ、オクラホマ、テネシー、バージニアなどでも捜査が進行している。
バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェース、モルガン・スタンレー、ウェルズ・ファーゴなどが調査対象である。
この調査について、1世紀近く消費者向け製品をテスト・評価・審査してきたConsumers’ Researchの幹部は、「各州は、大手銀行が明らかな違反行為をし、ESGの下に非常に疑わしい気候変動対策を売り込んでいる事への責任を追及している。これらは、米国の消費者を犠牲にし、エネルギーに障害を与えようとする共謀的企みの一環だ」と述べている。
一方、環境保護団体は、「NZBAは、化石燃料からの撤退が十分でない金融機関に便宜を図っている」と批判している。例えば、シエラ・クラブは、「気候目標について大言壮語しながらも化石燃料の大幅な拡大に融資を続ける銀行に対して、NZBAはNOというべきだ」と語っている。
ESG Watch: Banks’ net-zero pledges in the spotlight at Climate Week New York
ブラックロック、ESG投資リスク増大でUBSに格下げされる
世界最大の資産運用会社であるブラックロック(BLK)は、ウォール街で流行となったESG投資に注力してきた。しかし、BLKのESGへの取り組みに対する反発が高まっていることから、UBSアナリストは、同社の株式を「買い」から「中立」に格下げし、目標株価を700ドルから585ドルに切り下げたという。
また、ルイジアナ州の財務担当者はBLKのトップに書簡を送り、同州が3ヶ月以内にETF、MMF、投資信託などから約8億ドルを清算することを通知した。BLKの反化石燃料方針、化石燃料部門を阻害しようとする行動からルイジアナを守るために、投資売却は不可欠であることが理由だと報じられた。
類似のことが、テキサス州、サウスカロライナ州、ネブラスカ州、フロリダ州、アーカンソー州、ユタ州、ウェストヴァージニア州などでも起きている。
共和党が主導する州が、いわゆる責任投資という理由で、売却を進めているのはBLKだけではない。
ウェストバージニア州は、ゴールドマン・サックス、JPモーガン・チェース、モーガン・スタンレー、ウェールズ・ファーゴといった金融機関を州の銀行契約の対象から外すと発表した。
フロリダ州のデサンティス知事と州管理委員会評議員たちは、1860億ドルの州年金基金からESG基準を削除する措置を承認した。8月、デサンティス知事は、「ESG、多様性、包摂性、公平性といった婉曲的な旗印のもと、企業の力が、投資の優先順位を曲解して米国民にイデオロギー的な議題を押し付けるためにますます利用されている」との声明を発表した。
Governor Ron DeSantis Eliminates ESG Considerations from State Pension Investments
ESG投資をめぐる米国の州と金融機関の争いは、中間選挙後も沈静化することはなく、保守の影響力が増す中、さらに拡大していくと予想される。また、NZBA、即ち国連との関係の見直しも進み、早晩、米国がパリ協定から再離脱することも十分あり得ることだと考えられる。
関連記事
-
米国トランプ政権は4月8日、「美しいクリーンな石炭産業の再活性化」というタイトルの大統領令を発し、石炭を国家安全保障と経済成長の柱に据え、その推進を阻害する連邦規制を見直すこと、国有地での鉱区の拡大、輸出の促進などを包括
-
原子力発電施設など大規模な地域社会の変容(これを変容特性と呼ぶ)は、施設の投資規模、内容にまず依存するが(これを投資特性と呼ぶ)、その具体的な現れ方は、地域の地理的条件や開発の意欲、主体的な働きかけなど(これを地域特性と呼ぶ)によって多様な態様を示す。
-
3月7日から筆者の滞在するジュネーブにて開催された100年以上の歴史を誇るモーターショーを振り返りつつ雑感を述べたい。「Salon International de l’Auto」、いわゆるジュネーブ・モーターショーのことだ。いわゆるジュネーブ・モーターショーのこと。1905年から開催されている。
-
ご存じの方も多いと思いますが、先月末にビル・ゲイツ氏が気候変動対策への主張を転換しました。 ビル・ゲイツ氏、気候変動戦略の転換求める COP30控え | ロイター 米マイクロソフト創業者で慈善活動家のビル・ゲイツ氏は28
-
IPCCの報告が昨年8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 以前、ハリケーン等(ハリケーン、台風、サイクロンの合計)
-
最新鋭の「第3世代原子炉」が、中国で相次いで世界初の送電に成功した。中国核工業集団(CNNC)は、浙江省三門原発で稼働した米ウェスチングハウス(WH)社のAP1000(125万kW)が送電網に接続したと発表した。他方、広
-
この日経記事の「再生エネ証書」という呼び方は欺瞞です。 再生エネ証書、1キロワット時0.3円に値下げ 経産省 経済産業省は24日、企業が再生可能エネルギーによる電気を調達したと示す証書の最低価格を1キロワット時1.3円か
-
18世紀半ばから始まった産業革命以降、まずは西欧社会から次第に全世界へ、技術革新と社会構造の変革が進行した。最初は石炭、後には石油・天然ガスを含む化石燃料が安く大量に供給され、それが1960年代以降の急速な経済成長を支え
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
















