政府は脱炭素など本気でめざしていない

kuppa_rock/iStock
ウクライナ戦争以前から始まっていた世界的な脱炭素の流れで原油高になっているのに、CO2排出量の2030年46%削減を掲げている政府が補助金を出して価格抑制に走るというのは理解に苦しみます。
ガソリン価格、172円維持 岸田首相「資源外交を積極展開」(2022年3月13日付時事通信)
岸田文雄首相は13日の自民党大会で、ウクライナ危機などの影響による原油価格の高騰に関し、「当面、ガソリン価格を172円に維持する」と表明した。石油元売り会社への補助金の上限額を1リットル当たり5円から25円に増額する措置などで実現を目指す。
価格抑えない給油所、現地調査へ 補助金効果上げ狙う(2022年2月10日付日経新聞)
萩生田光一経済産業相は10日の閣議後の記者会見で、政府のガソリン価格抑制策の効果が出ていない給油所を来週から現地調査すると明らかにした。石油元売りへの補助金で卸値が抑制されたのに店頭価格に反映しない理由を聞く。1月末の抑制策開始後も店頭価格の上昇が止まっておらず、効果を高めることをめざす。
化石燃料の価格が上がって消費量が抑えられれば炭素税と同じ効果になりますが、この程度(とても大変な状況ですが、まだ始まったばかり、という意味です)の価格上昇で補助金を出して右往左往しているということこそが、政府が本気で脱炭素なんてめざしていないということの表れです。
もしも本気で政府が脱炭素をめざすのであれば、補助金(=これも国民の血税です)を出して価格を抑制するのではなく、必要なコストを説明した上で国民に納得してもらわなければなりません。さらに言えば、今後も原油や電力等の価格が高騰することを国民へ説明するとともに、原発再稼働や石炭火力発電の利用拡大といったエネルギーコスト上昇の回避策もきちんと示して政策の選択肢を与えるべきです。
過去10年間の電気料金は家庭向けで約22%、産業向けで約25%も上昇しています。要因は、東日本大震災における福島第一原発事故を受けて原子力発電所を停止し、代わりにLNG火力発電を増やしたためです。

出典:資源エネルギー庁
電気料金の高騰は国民(特に生活が苦しい弱者)を苦しめますし、日本の真夏・真冬の猛暑厳冬は生死にかかわる重大問題です。
産業界(特に中小企業)にとっても、利益を圧迫し国際競争力や雇用に影響します。企業経営で考えると、購入電力のコストアップに加えて、生産や事業活動に直接寄与しない太陽光発電の設置やカーボンオフセットなどによってさらに高コスト体質になってしまいます。価格転嫁ができればよいのですが、化石燃料そのものであるガソリンがこんな状況では、B2B、B2Cを問わずあらゆる製品・サービスの価格上昇を認めてくれる顧客はほとんどいないはずです。
政府はこうした説明を先送りするばかりですので、国会議員の皆さんにはぜひ参院選の論点にしていただき国民的な議論を深めてほしいものです。
■

関連記事
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。 1)ウランは充分あるか? エネルギー・コンサルタントの小野章昌氏の論考です。現在、ウランの可能利用量について、さまざまな議論が出て
-
9月14日、政府のエネルギー・環境会議は「2030年代に原発ゼロ」を目指す革新的エネルギー環境戦略を決定した。迫りくる選挙の足音を前に、エネルギー安全保障という国家の大事に目をつぶり、炎上する反原発風に気圧された、大衆迎合そのものといえる決定である。産業界からの一斉の反発で閣議決定にまでは至らなかったことは、将来の国民にとって不幸中の幸いであった。報道などによれば、米国政府筋などから伝えられた強い懸念もブレーキの一因と いう。
-
はじめに 気候変動への対策として「脱炭素化」が世界的な課題となる中、化石燃料に依存しない新たなエネルギー源として注目されているのがe-fuel(合成燃料)である。自動車産業における脱炭素化の切り札として各国が政策的な後押
-
日本経済新聞は、このところ毎日のように水素やアンモニアが「夢の燃料」だという記事を掲載している。宇宙にもっとも多く存在し、発熱効率は炭素より高く、燃えてもCO2を出さない。そんな夢のようなエネルギーが、なぜ今まで発見され
-
前回、環境白書の示すデータでは、豪雨が増えているとは言えない、述べたところ、いくつかコメントがあり、データや論文も寄せられた(心より感謝します)。 その中で、「気温が上昇するほど飽和水蒸気量が増加し、そのために降水量が増
-
米国農業探訪取材・第4回・全4回 第1回「社会に貢献する米国科学界-遺伝子組み換え作物を例に」 第2回「農業技術で世界を変えるモンサント-本当の姿は?」 第3回「農業でIT活用、生産増やす米国農家」 (写真1)CHS社の
-
欧州委員会は1月1日、持続可能な経済活動を分類する制度である「EUタクソノミー」に合致する企業活動を示す補完的な委任規則について、原子力や天然ガスを含める方向で検討を開始したと発表した。 EUタクソノミーは、EUが掲げる
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間