エネルギー危機と日本の対応:戦後最大の脅威にどう立ち向かうか

2026年03月31日 06:50
アバター画像
東京大学大学院教授

中東情勢の緊迫化、とりわけホルムズ海峡の事実上の封鎖は、日本のエネルギー安全保障に戦後最大の脅威を突き付けている。原油価格の急騰はLNG価格にも波及し、円安もあいまって輸入依存度の高い日本経済に深刻な影響を及ぼすことが懸念される。

筆者は現在、米国に出張中であるが、本稿執筆時点(3月21日)においてイラン戦争の帰趨は予断を許さない。ワシントンの専門家やコンサルも複数のシナリオを提示する以上のことはできていない。

ある会合で出会った米国議会のエネルギー政策スタッフが「自分の見るところ、ホルムズ海峡が正常化するまで、あと4~5週間(筆者注:最も楽観的な部類)だろう」と言っていたが、その理由は「中間選挙を考えれば、トランプ政権はそれ以上の長期化に耐えられない」というものであり、イランやイスラエルはそのようなロジックでは動いていない。

しかもホルムズ海峡の通行が正常化したとしても、世界のエネルギー供給にもたらしたダメージは大きい。世界の生産能力の17%を占めるカタールのLNG施設は全面復旧まで5年かかるといわれている。

SAIGLOBALNT/iStock

1. 短期対策は総動員

現下の危機対策として、国家石油備蓄の機動的放出やIEAとの協調行動を通じた市場パニックの抑制策が講じられている。

短期対策も総動員せねばならない。

第1に米国・豪州・東南アジアからのLNGスポット・短期契約の最大限活用、政府やJOGMECによる調達支援(信用補完・共同調達)などを通じたLNGの量の確保と価格安定の追求である。

第2に再稼働済み原発のフル活用、定期検査の間隔の延長、燃料装荷済み停止炉の再稼働の加速により、高コスト化するLNG需要を抑制することである。脱炭素を根拠に悪玉視されてきた石炭火力の稼働率引き上げも断行すべきだ。特に2026年4月からスタートするGX-ETSが供給力確保に不可欠な石炭火力に大きな負担をかけないよう無償割り当てを十分厚く確保することが必要だ。

第3に需要抑制である。IEAは自動車輸送部門の需要抑制によるガソリン需要の削減(在宅勤務の推進、出張削減・オンライン会議、公共交通利用の拡大、カープール推進等、高速道路の速度引き下げ、エコドライブなど)、航空需要の抑制によるジェット燃料節約(短距離移動の鉄道シフト、ビジネス出張の削減)、都市交通の抑制(カーフリーデー、ナンバープレート規制等)、電力・ガス需要の節約によるLNG需要の節約(空調温度の調整、照明・電力消費の削減等)を推奨している。

2. 中長期のエネルギー供給の強靭化

短期の危機対策と並行して中長期のエネルギー供給も見直す必要がある。イランにおいて体制転換が実現し、イランを支持するハマス、ヒズボラ、フーシなどが完全に無力化されない限り、エネルギー施設やエネルギーの流れへのリスクは残る。これはエネルギー供給元としての中東地域の安定性に対する認識を大きく変えることになるだろう。

LNGの調達戦略の強化

わが国のエネルギーミックスにおけるLNGの重要性は変わらないが、LNGの調達戦略を強化する必要がある。カタールのLNGは大きな被害を受けたが、日本のLNG調達の中東依存度は15%程度と原油の70%よりもはるかに低い。

しかしLNG価格の原油リンクは、調達量を分散しても中東情勢の影響を強く受けることになる。「量は分散できても価格が分散できていない」のである。ヘンリーハブに立脚し、仕向け地自由の米国LNGの調達を増大させることにより、価格ポートフォリオの分散、契約条件の柔軟性を増大させるべきだ。米国産LNGは日本のLNG調達戦略において非常に大きな役割を果たす。

他方、米国もパイプラインを含む天然ガスインフラの整備が進まなければ、豊富なガス資源を国内需要と海外需要に振り向けることが難しくなるかもしれない。自国第一主義が広がる中、米国への過剰依存リスクも考えておくべきだ。

石炭火力の再評価

天然ガスとの対比で悪玉視されてきた石炭火力についても再評価が求められる。LNGの物理的調達やコストに問題が生じたとき、地政学リスクが非常に低く、安定的なベースロード火力を提供できる石炭火力の役割は大きい。安易な石炭火力発電所の閉鎖は禁物であり、非常時電源としての温存が必要である。その維持のための政策インセンティブも必要だろう。

そもそも、世界的な石炭火力フェーズアウト論の拠り所となってきたのは、全球1.5度目標と2050年カーボンニュートラル目標である。もともとトップダウンで設定された2050年全球カーボンニュートラル目標の実現可能性は極めて低かったことに加え、イラン戦争を契機にLNG価格の国際的高騰を考えれば、石炭資源が豊富に存在するインド、中国、東南アジア、南アジア諸国において石炭回帰が起きる可能性が極めて高い。

石炭火力の利用が不可避であるならば、AZEC(アジアゼロエミッション共同体)を通じて高効率石炭火力、バイオマス、アンモニアの混焼等、各国の実情に合わせたオプションを総動員する必要がある。

原子力の活用

地政学リスクに対する強靭性を高めつつ、脱炭素を追求するためには原子力の活用をさらに強化せねばならない。原子力は、国産エネルギーに準じる準国産電源として、供給安定性と低炭素性を兼ね備えている。安全性確保を大前提としつつ、既設炉の再稼働、運転期間延長、さらには新型炉によるリプレースを進めることにより、LNG依存度の低減と電力価格の安定化に資する。

非常時における迅速な再稼働を迅速化するため、特重施設整備と再稼働をリンクさせない運用を検討すべきである。また「緊急時限定の優先審査レーン」を法令・運用で整備することも重要だ。「供給危機認定」「安全確認済み」「避難計画確認済み」の3条件がそろえば、一定期間内に地元合意の結論を出す枠組みを設けることも考えられる。

いずれも政治コストの高いアジェンダであり、政治の強い意志が求められる。

再エネの拡大と重要鉱物問題

ウクライナ戦争の時と同様、「今こそ再生可能エネルギーの導入拡大により、中東依存低下、脱化石燃料を進めるべき」との議論が聞かれる。

国産エネルギーの再エネ拡大は進めればよいが、変動性再エネが拡大すればバックアップ電源としての天然ガス需要も増大する。再エネを拡大しさえすればよいという問題ではない。また、再エネ拡大がメガソーラーのような中国製パネルの蔓延や中国の重要鉱物依存拡大につながったのでは意味がない。

中国はあからさまに重要鉱物を政治的武器として使っている。重要鉱物はクリーンエネルギー転換のみならず、軍事技術、半導体にも不可欠である。国家安全保障の観点から日米、G7は重要鉱物行動計画を通じて中国依存度を下げようとしているが、調達コストが上昇することも不可避である。

これまでの「再エネは安くなった。さらなる導入拡大が可能だ」という議論は、国家資本主義のもとで大量生産された中国製クリーン技術や、中国がサプライチェーンを支配する重要鉱物への依存を度外視するものであった。今後は脱中国を図りながらクリーンエネルギー転換を図るコストを直視しなければならない。

地政学情勢の変化の中で化石燃料のコストがどう展開するか、原発の導入拡大スピードも見据えながら、合理的なポートフォリオを考えねばならない。

エネルギー安全保障外交の強化

エネルギー安全保障の外交強化が今ほど求められている時期はない。日米協力はその中核である。

先日の高市総理訪米は日米のエネルギー協力強化に大きなモメンタムを与えた。「脱中東」戦略の一環として、アラスカなどの米国産原油を日本で共同備蓄し、アジア諸国への供給拠点化を進めるという構想は国際石油需給安定に貢献する。

アラスカLNGプロジェクトは、日米エネルギー安全保障協力の重要な柱の一つである。需要見通し、価格競争力、コスト構造、契約の柔軟性について現実的な評価が求められるが、国際エネルギー情勢の混乱と日米同盟関係を踏まえると、単なる商業プロジェクトを超えた戦略的プロジェクトと位置付けるべきだろう。

日米ともに官民の強い関与が求められる。日本側は経産省、JOGMEC、JBIC、NEXIなどの支援を総動員し、米側においては党派を超え、天然ガスプロジェクトを進めるという政策・規制の予測可能性が何より求められる。

同時に中東産油国との関係を維持するとともに、海上輸送安全確保(シーレーン防護)のために何ができるかも考えねばならない。米国主導の国際秩序がまがりなりにも機能していた時期に制定された安保法制が、現実に対応できなくなっているならば、安保法改正や暫定法制定も躊躇すべきではない。当たり前の話であるが、憲法や法律は我が国の安全と繁栄のために存在する。国際環境が大きく変わったのであれば、それに応じた対応が必要なのは当然だ。

3. 理想と現実のバランスを

以上の方向性は、日本の国家、国民のためのエネルギー安全保障最優先という「現実」を前提にするものだ。もちろんパリ協定に基づく国際的な脱炭素推進という「理想」を否定するものではない。現下のエネルギー危機は、日本に対し理想と現実のバランスを問い直すことを厳しく求めている。

脱炭素はグローバルな課題であるが、各国のエネルギー事情や発展段階は大きく異なる。先進国が過度に高コストな脱炭素を追求すれば、途上国との乖離が拡大し、結果としてグローバルな排出削減は進まない。

残念ながら現在、脱炭素をすべてに優先するような国際環境にあるとは言えない。脱炭素議論をリードしてきたEUも米国とのコスト差の拡大と脱産業化リスクに直面し、軌道修正を強いられつつある。しかしトランプ政権のように脱炭素を否定することは日本の「国徳」に反する。エネルギー安全保障を最優先で追求する一方、その範囲内で脱炭素のコベネフィットを追求するというのが現実的だろう。

This page as PDF

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑