NHK日曜討論:脱炭素キャンペーンでバランスを欠く公共放送

2022年10月01日 07:00
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東京大学大学院教授

9月25日、NHK日曜討論に出演する機会を得た。テーマは「1.5℃の約束―脱炭素社会をどう実現?」である。

日曜討論公式Twitterより

その10日ほど前、NHKの担当ディレクターから電話でバックグラウンド取材を受け、出演依頼が来たのは木曜日である。他のパネリストは誰かと聞いたところ、「現在、出演交渉中であり、固まったらご連絡する。様々な立場から多様な意見を伺いたい」とのことであった。

金曜日にパネリストの連絡が来た。筆者のほかに気候変動イニシアティブ代表末吉竹二郎氏、一般社団法人クライメート・インテグレート代表理事平田仁子氏、信州大学特任教授夫馬賢治氏、環境団体record 1.5共同代表山本大貴氏であり、司会は伊藤雅之NHK解説委員と星麻琴アナウンサーである。

筆者はこの陣容を聞いて「些か偏っているのではないか」と思った。国連のイニシアティブを受け、NHKと民放6局が共同で1.5℃目標達成に向けたキャンペーンを行っているのは承知している。しかし1.5℃目標は単なるキャンペーンで実現できるものではない。

温暖化問題とエネルギー問題はコインの裏表であり、国際エネルギー情勢、地政学、経済、国民生活への影響等を総合的に考えなければならない。温暖化対策を推進すれば、環境にも良いし、経済成長もするという良いことずくめの議論があるが、それならば温暖化問題がかくも深刻化することはなく、筆者が関与してきた温暖化交渉がかくも難航するはずがない。だからこそ日曜討論でも「様々な立場からの多様な意見」が必要なのだが、これでは「4対1」になるのではないか、と思った。

日曜討論の模様はNHK+やNHKらじるらじるで視聴可能なので、ご関心のある方はそちらをご覧いただきたい。

日曜討論「1.5°Cの約束 脱炭素社会 どう実現?」(配信期限:10月2日午前10時迄)

筆者なりに総括すれば、温暖化対策が重要であるという点については5人とも同じである。しかしそこに至るまでのタイムフレームや道筋については意見が2つに分かれた。表にまとめれば以下のとおりである。

論点 末吉・平田・夫馬・山本 有馬
1.5℃目標の評価 1.5℃目標は絶対達成しなければならない 1.5℃目標に向けた努力は必要だが実現可能性には悲観的
46%目標の評価 46%目標では足りない。もっと引き上げるべき 46%目標のハードルは極めて高い。
目標達成に向けた手段 再エネ、省エネで実現すべき 再エネ、原子力も含め、使える手段はすべて動員すべき
石炭火力 廃止すべき 温暖化の観点のみでエネルギー源を裁断すべきではない。

日曜討論では各パネリストが発言するとき、「原則1分以内」と言われる。テレビ画像には映っていないが、中央に発光パネルが置かれており、50秒を過ぎると点滅を始める。1分で言いたいことを簡潔明瞭に伝えることは容易ではない。しかも大きく2つに意見が分かれる中、1つの考え方を表明する筆者は1人、もう1つの考え方を表明するパネリストは4人であり、時間配分上、大きなハンディを負う。

限られた時間の中でできるだけのことを伝えようと思ったが、後で録画を見直してみると当然ながら言い足りない点、意を尽くせなかった点がある。ここにそのいくつかを記したい。

第1に「1.5℃は絶対に達成しなければならない」という議論である。これを聴いて日本が2030年46%(あるいはそれ以上)、2050年カーボンニュートラルを達成すれば1.5℃目標を達成できると思った視聴者もいただろう。しかしこれは全くの誤解である。

日本の排出量は世界全体の3%を占めるのみであり、日本が大変なコストをかけて2050年カーボンニュートラルを実現したとしても温暖化防止効果は0.00何度でしかない。1.5℃目標を達成するためには2030年に全球45%削減が必要と言われるが、中国は2030年ピークアウトをかかげ、インドはCO2原単位を改善しつつも、2030年以降も排出増が続く。

「1.5℃は絶対に達成せねばならない」と強調された末吉竹二郎氏は是非、中国、インド、ASEAN諸国を行脚して「1.5℃目標達成のため、今すぐ石炭火力発電所を全廃して排出量を削減すべきだ」と説得していただきたい。

第2に末吉竹二郎氏は「ドイツは2000年以降、再エネのシェアを大幅に増やした。日本は遅れている」と強調されていたが、末吉氏を含む4名が推奨する再エネ原理主義、反原発原理主義をかかげたドイツがウクライナ戦争によって深刻な危機に陥っていることをどうお考えなのだろうか。

第3に我々の意見対立を「再エネ派対原発派」と評する向きがある。筆者は匿名で時に罵詈雑言を垂れ流すツイッターという媒体を好まないが、日曜討論出演後、視聴者の反響を知りたくてツイッターを覗いてみた。予想通り、「原発推進派」だの「政府の御用学者」だのとの批判があった。

しかし我々の対立軸は「再エネ派対原発派」ではなく、「再エネオンリー派対再エネ+原発派」である。再エネのコストが安くなっているのは事実であり、2050年の発電電力量構成の中で再エネが最大になるだろうと考えるが、脱炭素に向かう道筋の中でCO2フリーの電力を大量に供給できる原発の役割を最初から排除する考え方は合理的ではない。

筆者は再エネについてはネガティブな考え方は持っていないが、再エネを推奨する人の多くが原発を頑なに排除していることを強く批判するものである。

第4に「再エネは安くなっている。再エネと原発が同じ土俵で戦ったら再エネが勝つ」という平田仁子氏の主張であるが、再エネ導入拡大をけん引してきたのは固定価格買取制度という間接補助金による官製需要である。

再エネがそれほど安くなったのであればこうした補助金も不要のはずだが、今後、「切り札」とされている洋上風力はkwhあたり29-36円と太陽光を大幅に上回る買取価格が適用される。あたかも再エネが支援なしで独り立ちできるようなコメントをするのはミスリーディングではないか。

他にも言い足りなかった点が多々ある。温暖化対策のコストについて注意喚起しているのが筆者一人であったことにも違和感を覚える。

ガソリン価格高騰、電力料金高騰に対して政府が対策を講じていることからもわかるようにエネルギー価格の高騰は国民生活、産業活動に多大な影響を与える。コストを度外視すれば、それこそ再エネ100%も夢ではない。しかしそれでは国が持たない。

そういうジレンマを一般視聴者にわかってもらうことがNHKの務めではないかと思うのだが。

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